小売り業界編:高島屋【8233】好調が続く百貨店、改めて高まる中国依存から脱却できるか
事業内容
それではまず、事業内容から見ていきましょう。
高島屋の主な事業セグメントは以下の7つです。
①国内百貨店業:国内で高島屋を運営する事業
②海外百貨店業:シンガポール、上海、ベトナム、タイで高島屋を運営する事業
③国内商業開発業:国内でショッピングセンターなどを開発・運営する事業
④海外商業開発業:シンガポールやベトナムで商業施設などを開発・運営する事業
⑤金融業:クレジットカード、決済、保険や金融商品の販売など
⑥建装業:商業施設やホテルなどの内装・建築関連事業
⑦その他:飲食、人材派遣、広告宣伝、卸売など
高島屋といえば百貨店のイメージが強いですが、国内外でショッピングセンターを展開しているほか、小売りや商業施設を起点に金融、建装なども手掛けています。
ここで、百貨店とショッピングセンターの違いについて簡単に確認しておきましょう。
百貨店は、基本的には商品を仕入れて顧客に販売する小売業です。
一方、ショッピングセンターはテナントに売り場を貸し出し、賃料やテナント売上に応じた歩合収入を得る不動産業という側面が強いです。
高島屋では、玉川高島屋S・Cや日本橋高島屋S.C.などを展開しています。ただし、日本橋では本館に百貨店が入るなど、百貨店とショッピングセンターが一体となった複雑な事業構造となっています。
つまり高島屋は、商品を売る百貨店と、商業施設を運営する不動産事業の両方を持つ企業となっています。
事業別の構成
続いて、2026年2月期のセグメント別の構成を見ていきましょう。

売上構成
①国内百貨店業:59%
②海外百貨店業:6%
③国内商業開発業:10%
④海外商業開発業:3%
⑤金融業:5%
⑥建装業:7%
⑦その他:11%
営業利益構成
①国内百貨店業:45%
②海外百貨店業:15%
③国内商業開発業:12%
④海外商業開発業:10%
⑤金融業:10%
⑥建装業:4%
⑦その他:4%
売上・利益ともに最大なのは国内百貨店業で、営業利益では国内事業が約4分の3を占めています。
基本的には国内の状況が重要な企業だということです。
とはいえ、海外事業も約4分の1を占めており無視できない規模となっていますので、海外の状況もしっかり見ていく必要のある企業です。
業績推移
それでは続いて、2017年~2026年2月期までの10年間の業績推移を見ていきましょう。

コロナ以前の高島屋の利益は、2017年2月期以降は減少傾向となっていました。
国内では人口減少や中間層の縮小、衣料品を中心とした専門店やECとの競争などが進み、従来型の百貨店は徐々に稼ぎにくくなっていたためです。
そうした中で起きたのがコロナ禍です。
高島屋は日本橋、大阪、横浜、京都、新宿など、大都市の店舗が主力です。
そのため、コロナ禍による外出需要の減少や店舗の営業時間短縮、インバウンドの消滅による影響を大きく受け、2021年2月期には大幅な赤字となりました。
しかし、その後は急速に業績が回復します。
2022年2月期には黒字へ転換し、2024年2月期、2025年2月期には2期連続で過去最高水準の利益を達成しました。
2026年2月期は営業利益が535億円となり、前期比では40億円の減益となりましたが、依然としてコロナ以前を大きく上回る利益水準を維持しています。
ちなみに、2026年2月期は転換社債の買入消却に伴う一過性の特別損失により最終赤字となっていますが、本業の収益とは関係のない要因で事業面は堅調です。
なので、近年はコロナ以前を大きく上回り好調だということです。
では、コロナ以前から収益力を落としていた高島屋は、なぜ過去最高水準の利益を出せるほど好調になったのでしょうか。
百貨店事業が復活した理由
大きな要因は、以下の3つです。
①構造改革によるコスト削減
②国内富裕層向け販売の拡大
③円安とインバウンド需要の拡大
順番に見ていきましょう。
構造改革による収益性の改善
まず、コロナ禍を通じて大規模な構造改革を進めたことです。
百貨店は大規模な店舗を構え、多くの従業員を抱えるため、人件費や設備費などの固定費が大きい事業です。
そのため、売上が減少すると利益が急激に悪化する一方、固定費を抑えた状態で売上が回復すれば、利益も大きく増加します。
高島屋は、業務の見直しや内製化、広告宣伝の効率化、要員構造の改革などを進め、収益性を高めてきました。

この取り組みは直近でも続けています。
インフレや賃金上昇が進む中で人的資本への投資、営業力強化、物価高などによって2026年2月期は63億円の費用増加要因がありました。
一方で64億円のコスト削減を実現し、国内百貨店事業の販管費全体は前期比で1億円減少しています。
賃上げや物価高による費用増加を、構造改革によるコスト削減で吸収できる体質になっているということです。
コロナ禍で行ったコスト削減は、一時的な緊急対応ではなく、その後の収益力を高める構造改革として機能しています。
国内富裕層と高額品販売の拡大
続いて、国内富裕層向けの販売が拡大したことです。
百貨店各社は、中間層向けの大量販売が難しくなる中で、外商顧客を中心とした富裕層向け販売を強化しています。

高島屋でも、宝飾品、時計、ラグジュアリーブランドなどの高額品が売上を押し上げてきました。
2026年2月期の国内百貨店の商材別の売上構成は、
・高額品:37%
・ファッション:26%
・食料品:24%
・その他:13%
となっており、最大なのが高額品となっています。
資産価格の上昇によって金融資産を増やした層や、比較的若い富裕層の消費拡大も影響しています。
外商販売は、担当者が顧客ごとの嗜好や資産状況を把握し、個別に商品を提案する事業です。
不特定多数に広告を行うマス向け販売と比べると、効率的に販売しやすいという特徴もあります。
そのため、富裕層向け販売の拡大は、売上面だけでなく広告宣伝費などのコスト面にも好影響を与えます。

2026年2月期も国内顧客の店頭売上は前期比4%増加し、外商顧客も4%増加しています。
インバウンドだけでなく、国内顧客の需要も堅調に推移しています。
円安とインバウンドの拡大
そして、最も大きな成長要因の1つとなったのが、円安とインバウンドです。
高島屋のインバウンド売上は以下のように推移しました。
2020年2月期:496億円
2023年2月期:255億円
2024年2月期:687億円
2025年2月期:1160億円
2025年2月期には、コロナ以前の2020年2月期の2倍以上まで拡大しています。
さらに、インバウンドで売れる商品も大きく変化しました。
2020年2月期から2024年2月期にかけて、インバウンド売上に占める高額品の比率は37%から73%へ上昇しました。
一方、化粧品の構成比は36%から9%へ低下しています。
コロナ以前は、化粧品や日用品を大量に購入する「爆買い」が注目されていました。
しかし、コロナ後は円安によって日本で割安となった宝飾品や時計、ブランド品などを購入する需要が拡大しています。
爆買いの対象が、化粧品から高額品へ変わったということです。
特に大きかったのが中国からの需要です。
インバウンド売上に占める中国の比率は、
2020年2月期:77%
2023年2月期:43%
2024年2月期:48%
2025年2月期:58%
と推移しました。
コロナ後はいったん中国以外の顧客が増えましたが、2025年2月期には中国の比率が再び上昇しています。
コロナ以前ほど中国依存ではなくなっているものの、2025年2月期の好業績は、中国人客による高額品販売の急拡大にも支えられていたということです。
中国依存のリスクが顕在化
しかし、この中国依存が改めて高まっていることが2026年2月期には業績のリスクとして表面化しました。

2026年2月期のインバウンド売上は949億円で、前期比18%減少しました。
インバウンド売上の減少要因には、前年の急成長の反動や、前期より若干円高になった影響もありました。
ですがそれだけではなく、最も大きかったのが中国の悪化です。
2025年11月には日中関係が悪化する中で、中国政府が中国国民に対し、日本への渡航を控えるよう呼びかけました。
その影響が含まれる2026年2月期の第4四半期では、中国からのインバウンド売上が前年同期比34%減少しています。
前年はインバウンド売上の、56%を占めていた中国比率も44%まで減少しています。
国内顧客の売上は通期で4%増加していましたが、インバウンドの減少を完全には補えず、国内百貨店事業の営業利益は前期比37億円減の249億円となりました。
近年は中国人客による高額品販売が急拡大したことで利益が伸びた一方、中国依存のリスクが改めて高まっていたということです。
つまり、現在の高島屋は構造改革と高額品販売の拡大によって、以前より高い利益水準は期待できます。
一方、中国経済や日中関係など、自社ではコントロールできない要因によって業績が左右されるリスクも顕在化しました。
今後は中国人客が大きく回復しなくても、百貨店事業の成長を続けられる体制を作れるかが重要です。
今後の成長戦略
高島屋の状況が分かったところで、続いて成長戦略にも触れていきましょう。

2031年度には、営業利益に持分法投資利益や受取配当金を加えた「事業利益」を750億円から800億円まで拡大する目標を掲げています。
そのため、百貨店以外の利益比率を2025年度の41%から46%へ、海外事業の比率を26%から32%へ高める方針です。
ベトナム事業

そしてその海外では、ベトナムを重点成長市場としています。
2027年度にはハノイ高島屋S.C.の開業を予定し、2030年度以降にはサイゴンセンターとホーチミン高島屋の増床を計画しています。
また、百貨店や商業施設だけでなく、住宅分譲、学校不動産、オフィスなどにも事業領域を広げます。
ベトナム事業の事業利益は、2025年度の37億円から2031年度には100億円を目指しています。
ベトナムを新たな利益の柱に育てられれば、国内百貨店だけでなく、シンガポールなど特定地域への依存度を下げることにもつながりますので、この取り組みの進捗に注目です。
直近の業績
それでは最後に、直近の2027年2月期第1四半期の業績を見ていきましょう。

総額営業収益:2614億円(+8.4%)
営業利益:160億円(+26.4%)
事業利益:173億円(+30.9%)
経常利益:165億円(+43.3%)
純利益:111億円(+58.4%)
増収増益で、各段階の利益が大きく伸びています。

海外事業も堅調ですが、特に伸びたのが国内百貨店で、営業利益33億円の増益のうち、23億円を国内百貨店業が占めています。

国内百貨店の店頭売上は前年同期比10%増となりました。
顧客別では以下の通りです。
・国内顧客:+9%
外商以外の顧客:+9%
外商顧客:+11%
・インバウンド:+15%
国内顧客、外商、インバウンドの全てが伸びています。

商品別では、高額品が20%増となったほか、衣料・雑貨も3%増、食料品も3%増となりました。
これまでは高額品が成長の中心でしたが、衣料品などもプラスに転じている点は好材料です。

そして、特に注目すべきなのがインバウンドの国籍別の動向です。
インバウンド売上は15%増となった一方で、中国からの売上は7%減少しました。
それでも、中国以外の顧客が中国の減少を補ったことで、インバウンド全体は増収となっています。
インバウンド売上に占める中国の構成比も42%まで低下しました。
高島屋は海外店舗から日本の店舗への送客なども進めており、中国以外からの顧客獲得が進んでいます。
2025年2月期には中国比率が58%まで上昇していましたから、直近では中国への依存度が低下しています。
中国人客の売上が減少しても、その他の国からのインバウンドによって売上を伸ばせたことは重要な変化です。
ただし、2026年2月期の1Qは円高方向に為替が推移した事で、中国からのインバウンドの売上が落ちていた時期です。
なので、直近の中国売上は、2025年2月期の高水準から大きく落ち込んだ後の水準となっています。
中国以外の顧客が伸びたことで前年同期比ではインバウンド全体が増収となりましたが、2025年2月期の中国人客の減少分を完全に補ったわけではありません。
今後、中国以外の売上をもう一段継続的に伸ばせるかが重要です。

また、インバウンドの客数は4%減少する一方、客単価は19%増加しています。
高額品の売上が24%増加し、インバウンド売上に占める高額品の構成比は66%から71%へ上昇しました。
コストの抑制などは続いており、基本的には堅調な業績が期待されますが、少数の顧客による高額購入に支えられている側面は依然として強いです。
富裕層が中心でインフレの影響を受けにくいという点は強みですが、円高リスクなどは大きいですから、為替には注意が必要でしょう。
ちなみに、会社計画は上期のインバウンド△3%を前提としていましたから、1Qの+15%は計画を大きく上回る滑り出しとなっており上振れ期待もあります。
ただし通期では△11%を見込んでおり、下期は△18%という厳しい前提が置かれていますので、今後のインバウンドの動向は注意して見ていく必要があります。
まとめ
ということで高島屋は、国内百貨店業を主力としながら、国内外の商業開発、海外百貨店、金融なども展開しています。
コロナ禍では大幅な赤字となりましたが、その後は構造改革によるコスト削減、国内富裕層向け販売、円安とインバウンド需要の拡大によって、過去最高水準の利益を出せる企業へ変化しました。
一方で、好業績を支えたインバウンドでは中国人客の比率が再び高まっていました。
2026年2月期には、中国からのインバウンド売上が減少し、さらに日中関係の悪化を背景とした渡航抑制も起きたことで、中国依存のリスクが顕在化しました。
直近では、中国人客の売上が減少しても、中国以外のインバウンドによって全体の売上を伸ばしています。
この傾向を継続し、インバウンドの国籍をさらに分散できるかが重要です。
さらに企業全体では、ベトナムを中心とする海外事業を成長させ、国内百貨店への利益依存を下げられるかにも注目です。
中国人客の回復を待つ企業ではなく、中国人客が戻らなくても成長できる企業へ変われるか。
それが、今後の高島屋を見るうえでの重要なポイントとなりそうです。
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