小売り業界編:イオン【8267】売上10兆円のイオンは、巨大な規模を利益に変えられるか
事業内容
それではまず、事業内容から見ていきます。
イオンは非常に大きなグループで、事業内容も膨大ですので、今回はある程度ざっくりと見ていきます。

主な事業セグメントは以下の8つです。
①GMS事業:食料品だけでなく、衣料品や住居用品なども扱う総合スーパー
・イオンリテール、イオン北海道、イオン九州、キャンドゥなど
②SM事業:食料品を中心に扱うスーパーマーケット
・ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス、マックスバリュ東海、フジ、ダイエーなど
③DS事業:低価格商品を中心に扱うディスカウントストア
・イオンビッグなど
④ヘルス&ウエルネス事業:ドラッグストアや調剤薬局
・ツルハホールディングス、ウエルシアホールディングスなど
⑤総合金融事業:クレジットカード、銀行、電子決済、ローンなど
・イオンフィナンシャルサービス、イオン銀行など
⑥ディベロッパー事業:商業施設の開発・運営
・イオンモール、イオンタウンなど
⑦サービス・専門店事業:アミューズメント、映画館、設備管理、専門店など
・イオンファンタジー、イオンエンターテイメント、イオンディライト、コックス、ジーフットなど
⑧国際事業:中国やアセアン地域での小売事業
スーパーを中心とした小売事業だけでなく、商業施設の開発、ドラッグストア、金融、映画館やアミューズメント施設など、生活に関連する多様な事業を展開しています。
単に店舗で商品を売るだけでなく、商業施設を作り、グループ企業を出店させ、そこで使われるカードや決済サービスも提供するという、非常に大きな経済圏を持つ企業です。
事業構成

続いて、2026年2月期のセグメント別構成を見ていきます。
売上構成
①GMS事業:33%
②SM事業:27%
③DS事業:4%
④ヘルス&ウエルネス事業:15%
⑤総合金融事業:5%
⑥ディベロッパー事業:5%
⑦サービス・専門店事業:7%
⑧国際事業:5%
GMSとSMを合わせると約6割を占めており、売上規模では従来通り、総合スーパーやスーパーマーケットが中心です。
一方、利益構成と利益率を見ていくと以下の通りです。
利益構成 カッコ内は営業利益率
①GMS事業:8%(0.6%)
②SM事業:11%(1.0%)
③DS事業:3%(1.7%)
④ヘルス&ウエルネス事業:19%(3.2%)
⑤総合金融事業:22%(10.7%)
⑥ディベロッパー事業:25%(13.6%)
⑦サービス・専門店事業:10%(3.6%)
⑧国際事業:4%(1.8%)
売上規模ではスーパー関連が中心ですが、利益面ではディベロッパー、総合金融、ヘルス&ウエルネスの規模が大きくなっています。
食料品を中心とするスーパーは価格競争が激しく、利益率が低くなりやすい一方、ドラッグストアは医薬品や調剤、化粧品、ディベロッパー事業はテナント賃料、金融事業はカードや銀行などから、比較的高い利益率を得ています。
ただし、こうした事業もイオングループの巨大な店舗網や顧客基盤があるからこそ成り立ちます。
利益率の低い小売事業も、グループ全体の収益を生み出す根幹として重要だということです。
業績の推移
続いて、業績の推移を見ていきます。
イオンは長期的に売上を拡大しており、2012年度に5兆円台だった営業収益は、2026年2月期には10兆7153億円まで拡大しました。
一方、以前は売上の拡大ほどには利益が伸びていませんでした。
総合スーパーやスーパーマーケットの事業規模は拡大したものの、専門店との競争激化や、人件費、物流費、店舗維持費などの増加によって、収益性が悪化していたためです。
そのため、以前のイオンは、小売事業の収益性悪化を、金融、イオンモール、ドラッグストアなどの成長で補う側面が大きい企業でした。

ですが、直近5年間は多少の増減はありつつですが、売上利益共に拡大傾向となっており、状況に変化が見られます。
2022年2月期から2026年2月期までの業績は以下の通りです。
営業収益:8兆7159億円→10兆7153億円
営業利益:1743億円→2704億円
経常利益:1670億円→2430億円
純利益:65億円→726億円
営業収益の年平均成長率が5.3%だったのに対して、営業利益は11.6%で成長しており、直近では売上以上のペースで利益が伸びています。
2026年2月期は営業収益が5期連続で過去最高となり、営業利益も過去最高を更新しました。
これまでのように規模だけが拡大する状況から、徐々に利益も伴う成長へ変わりつつあるということです。
では、どうして近年は利益面が成長するようになったのでしょうか。
モールから「体験を提供する場所」へ

その大きな要因が、ディベロッパーやエンターテイメント関連の事業です。
イオンモールを中心とするディベロッパー事業は近年増益傾向が続いており、2026年2月期は過去最高益です。

さらに、サービス・専門店事業も増益が続いており、2026年2月期にはイオンエンターテイメントやイオンファンタジーが過去最高益を更新しています。
イオンモールでは飲食、シネマ、アミューズメント、イベントなどの体験型コンテンツが集客を牽引しているとしており、サービス・専門店の人気の高まりがイオンモールの人気にも繋がっているということです。
インターネット通販が普及する中で、単に商品を買う場所としての商業施設の価値は低下しやすいです。
一方、飲食や映画、アミューズメント、イベントなどはオンラインでは代替しにくく、近場で短時間に楽しみたいという「安・近・短」の需要にも対応できているとしています。
さらに、猛暑などで屋外活動が難しくなる中では、空調の効いた大型商業施設自体の価値も高まっていると考えられます。
ドラッグストアも堅調
他にも堅調な業績を維持するのがドラッグストアを中心に展開するヘルス&ウェルネスです。

ドラッグストア市場は、高齢化による医薬品や調剤需要の増加に加え、化粧品、日用品、食品など取扱商品の拡大によって成長を続けています。
利益率の高い医薬品や化粧品、調剤を扱いつつ、低価格の食品や日用品で来店頻度を高められる点が強みです。
そうした市場拡大の中で、ウエルシアも出店や調剤、食品販売を拡大し、イオンのヘルス&ウエルネス事業も成長してきました。
コロナ禍では巣ごもり需要があり急速に業績が伸びた事もあり、利益が右肩上がりで伸びているわけでは無いものの、コロナ禍以降は安定して高水準の業績が続いています。
ツルハとの統合で成長が新たな段階へ
そして直近では、このドラッグストア事業がさらに新しい段階へ進んでいます。

イオンは2025年にツルハホールディングスとの経営統合を実現しました。
ツルハグループとウエルシアグループを合わせた新生ツルハHDは、売上高2.5兆円規模、店舗数5676店舗となり、国内最大規模のドラッグストア連合となっています。
これまでのヘルス&ウエルネス事業は、拡大するドラッグストア市場をウエルシアの成長によって取り込んできました。
そこにツルハとの統合が加わったことで、店舗数や売上規模が一気に拡大し、今後は市場成長に加えて、共同調達、物流、システム、商品開発、販促などの統合効果も期待できるようになっています。
2027年2月期1Qのヘルス&ウエルネス事業は、ツルハの連結化によって営業収益が大きく増加しただけでなく、ツルハグループ、ウエルシアグループともに大幅な増益となっています。
仕入条件の改善、売価管理、販促の統合、経費コントロールなどの効果も出始めており、単に事業規模が大きくなっただけでなく、収益性の向上も進んでいるとしています。
ツルハとの統合によって、収益性の改善も期待されるようになっていますので注目です。
最大の課題は食品小売
一方で、依然として課題となっているのが食品小売です。


2026年2月期は、GMS事業の営業利益が31.0%増加した一方で、SM事業は8.2%減益、DS事業も9.5%減益となりました。
食料品を中心とする小売業態では好調とは言いにくい状況です。
食品小売は商品の差別化が難しく、価格を比較されやすいうえに、そもそも低価格であることが選ばれる理由の1つです。
そのため値上げが難しく、人件費、物流費、水道光熱費などのコストが上昇すると利益が圧迫されやすいです。
実際にイオンでは、前中期経営計画の期間中に人件費や水道光熱費が約1900億円上昇したとしています。
これを効率化などで吸収してきましたが、利益率を高めることは容易な状況では無いと考えられます。
なので、今後のイオンにとっては、巨大な食品小売事業の規模を本当に利益へ変えられるかは重要だと考えられます。
トップバリュと共同調達

そんな中で、現在のイオンも食品小売改革に注力しており、その中心となるのが、プライベートブランドのトップバリュです。
イオングループのPB売上は1.7兆円規模まで拡大しており、そのうちトップバリュは1.2兆円を占めています。

2026年2月期もトップバリュの売上は前期比10%増え、GMS、SM、DS、ヘルス&ウエルネスの全てで売上が拡大しました。

イオンは2030年度にトップバリュの売上を2兆円、食品小売に占める構成比を30%まで引き上げる計画です。
さらに、ナショナルブランドのグループ共同調達比率も、現在の30%から45%へ引き上げようとしています。
イオンほどの販売規模があれば、大量に商品を調達することで仕入価格を引き下げられます。こういった取り組みで収益性を高められるかは注目です。
とはいえ、イオンは原価低減分をそのまま利益にしようとしているわけでは無く、それを価格へ再投資するとしています。
つまりイオンは巨大な規模を活かした価格低減力を集客力に変換しようという戦略に動いています。
インフレも進み節約志向も強まる中で、日本最大の事業規模を活かし価格競争をするということですから、これはは集客面では大きな優位性になると考えられます。
ただし、集客は好調が期待できても、原価低減分を価格へ再投資するため、PBの拡大がそのまま利益率上昇につながるわけではありません。
なので集客や販売量の増加を、さらなる原価低減や店舗生産性の向上につなげられるかが重要になりそうです。
また、このPBや調達力を活かした集客力は、利益率の高いディベロッパー事業や医薬品・化粧品などの収益性の高い商品を売りやすいドラッグストア事業の集客にも効きます。
加えて小売りの拡大は金融事業の拡大にも効きますので、この低価格による集客をグループ全体の利益に繋げられる可能性があります。
食品の利益率そのものの改善が進むかも重要ですが、同時に価格競争力を集客力に変えグループ全体の利益水準を押し上げられるかもポイントとなっていますから、食品小売りの利益最大化ではなく、グループ利益の最大化が進むかがポイントになりそうです。
物流・店舗業務もグループ全体で改革
また、コスト面では、これまでの個別企業や個別店舗単位の効率化から、グループ全体の構造改革へ移行しようとしています。
具体的には、
・プロセスセンターで食品の加工を集約
・大型店舗で製造した商品を周辺店舗へ供給
・納品頻度や店舗内の作業方法を見直す
・物流施設にAIやロボットを導入
・商品やサプライチェーンのデータを共通化
・需要予測の精度を高め、在庫や値引きを削減
といった取り組みです。
イオンはこうした改革によって、年間500億~600億円のコスト上昇を吸収し、2030年度には店舗人件費を700億~900億円削減する効果を目指していますから、その取り組みの効果にも注目です。
直近の業績
それでは最後に、2027年2月期1Qの業績を見ていきます。

営業収益:2兆9419億円(14.6%増)
営業利益:752億円(33.6%増)
経常利益:635億円(32.3%増)
純利益:▲65億円→138億円
増収増益で、会社の想定も上回ったとしており好調な業績です。

営業利益の前期比
・ヘルス&ウエルネス:+182億円
・ディベロッパー・エンターテイメント:+84億円
・総合金融:+47億円
特に好調だったのがこの3事業です。

ドラッグストアではツルハの経営統合の効果に加えて、そのシナジーによって収益性が高まり、ディベロッパーも好調が続いています。
総合金融事業も、国内では分割払い債権や住宅ローンが拡大し、海外でも全地域で増収増益となりました。AEON Payの会員数も1368万人まで増えています。
一方で、GMS、SM、DSなどの食品小売は苦戦しています。
つまり直近の好業績も、食品小売の収益性改善によるものというより、ツルハとの統合、ドラッグストアの収益性向上、モールやエンターテイメント、金融、アセアンの成長によるものです。
今後はやはり食品小売りの収益性改善が進むかがポイントとなっています。
今後について
イオンは2030年度に、営業収益15兆円、営業利益5300億円、ROE8.5%以上を目指しています。2026年2月期の営業利益は2704億円ですから、5年間でほぼ倍増させる計画です。
ツルハとウエルシアを中心とするヘルス&ウエルネス、ディベロッパー・エンターテイメント、金融、アセアンは成長を見込んでおり、実際に成果が出ていますから期待できます。
一方で本当に大きな変化となるのは食品小売です。
GMS、SM、DSは売上の大半を占めるため、わずかな利益率改善でもグループ全体の利益を大きく押し上げます。
逆にここが変わらなければ、営業利益5300億円の達成は難しくなります。
イオンはこれまで、低収益な小売事業を金融、不動産、ドラッグストアなどで補う企業でした。
現在は複数の成長事業を持ちながら、10兆円を超える売上、巨大な店舗網、1.7兆円規模のPB、2200万人のiAEON会員、膨大な購買・決済データを、食品小売の利益へ変えようとしています。
単に規模が大きい企業から、規模が大きいからこそ高収益な企業へ変われるか。
食品小売の収益構造改革に注目です。
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