小売り業界編まとめ:小売り業界の現在、成熟市場で企業はどう成長するのか
まずは6社を簡単に振り返る
まずは記事の軽い振り返りからしていきます。
イオン
まずはイオンです。
イオンは、GMSやスーパーマーケットだけでなく、ドラッグストア、金融、ショッピングモール、映画やアミューズメントなど、生活に関連する非常に幅広い事業を展開しています。
売上の大半を占めるのはGMSやスーパーマーケットですが、これらは利益率が低く、利益面では金融、ディベロッパー、ヘルス&ウエルネスなどの存在感が大きい企業です。
つまり、食品や日用品を販売する巨大な小売網を顧客接点として、より幅広い事業へつなげることが重要な企業となっています。
そして近年はこういった高収益事業の拡大によって業績は伸びています。
さらに現在はPBのトップバリュ、共同調達、物流改革などを通じ、これまで低収益だった小売事業自体の収益性も高めようとしており、今後の成長には巨大な規模そのものを、どれだけ利益へ変えられるかが重要な状況です。
高島屋
続いて高島屋です。
百貨店市場は長期的には縮小傾向にあり、コロナ以前から高島屋の利益も減少傾向となっていました。
ですが、コロナ後は状況が大きく変わっています。
国内富裕層による時計、宝飾品、ラグジュアリーブランドなどの高額消費に加えて、インバウンド需要も大きく拡大し、利益水準はコロナ前を大きく上回るまで改善しました。
現在の高島屋は、かつてのように幅広い中間層へ大量の商品を販売するだけではなく、富裕層や訪日客の高額消費を取り込むことで収益性を高めています。
市場そのものが縮小しても、伸びている顧客層へ重点を移せば成長できることを示している企業です。
ZOZO
続いてZOZOです。
ZOZOTOWNを中心とするファッションECを展開し、EC市場の拡大とともに長期的な成長が続いています。
現在では約1300万人規模の購入者を抱える巨大なサービスとなっています。
一方で、国内ファッションECそのものが急速に普及していく時期は過ぎつつあります。
そこで現在のZOZOでは、物流の自動化などによってコストを抑え、そこで生み出した余力を広告やポイントなどへ再投資しシェアを拡大する取り組みを進めています。
さらに、ZOZOTOWNで作った顧客、購買データ、物流基盤などを化粧品などの周辺市場や海外へ展開しようとしています。
ZOZOTOWN自体の成長だけでなく、これまで積み上げた基盤をどれだけ別の収益へつなげられるかが重要になっています。
ファーストリテイリング
続いて、ユニクロやGUを展開するファーストリテイリングです。
主力のユニクロは、流行に大きく左右されにくい定番商品を中心とし、企画から生産、物流、販売までを一貫して管理するSPAの仕組みを持っており、高収益を維持しながら拡大が続いています。
「Life Wear」という価値観は海外でも成長が可能なものとなっており、現在の成長を大きく牽引しているのが海外ユニクロです。
国内ではすでに非常に大きなシェアを持っている一方で、欧州や北米でのシェアはまだ小さく、大きな成長余地があります。
国内で作り上げた商品力やSPAの仕組みをそのまま海外へ広げ、世界的なアパレル企業へ成長できるかが最大のポイントとなっています。
セブン&アイ・ホールディングス
続いてセブン&アイ・ホールディングスです。
以前はイトーヨーカ堂や百貨店、専門店など幅広い事業を抱えていましたが、近年は事業再編を進め、コンビニを中心とする企業へ変化しました。
そして特に重要になっているのが米国です。
Speedway買収などによって米国の店舗網を大きく拡大し、現在では国内コンビニだけを見る企業ではなくなっています。
一方、現在は国内外でインフレによる節約志向の影響も受けています。
そのため国内では値ごろ感のある商品の強化、米国ではフレッシュフードやPBなど食品販売の拡大を進めています。
M&Aによって手に入れた巨大な店舗網を、どれだけ高収益な事業へ変えていけるかが重要な企業です。
ニトリ
そして最後がニトリです。
ニトリは家具やインテリアを中心に、商品企画から製造、物流、販売までを一貫して行うSPA企業です。
長年、国内外への店舗拡大によって36期連続の増収増益を続けてきました。
ですが、近年は円安による仕入れ価格の上昇や、インフレによる買い控え、コロナ禍の家具特需の反動などによって成長が停滞しています。
直近では粗利率が改善した一方で、既存店客数は大きく減少しました。
家具は一度買えば長期間使う商品ですから、そもそも購入頻度が低いという特徴があります。
そこで現在のニトリは、海外出店を進めるだけでなく、家電やアパレル、バッグ、キッチン用品など家具以外の商品を増やしています。
「家具を買う時に行く店」から、「より頻繁に訪れる店」へ変われるかが今後のポイントです。
国内小売市場で何が変わっているのか
ここまで6社を見てきました。
業態はかなり違いますが、並べてみると現在の国内小売市場で起きている変化も見えてきます。
値上げだけでは成長しにくくなってきた
まず大きな変化が、インフレに対する消費者の反応です。
ここ数年間は原材料費、人件費、物流費などが上昇し、多くの企業が値上げを進めてきました。
商品価格が上がれば、同じ数量が売れているだけでも売上は増えます。
そのため、小売企業にとっては値上げによって増収となりやすい環境が続いていました。
ですが、値上げが積み重なる中で消費者の行動も変わっています。
例えばセブン‐イレブンでは、価格が高いというイメージによって集客面に課題生まれました。そのため現在は、値ごろ感のある商品の強化を進めています。
イオンの食品小売でも、人件費や物流費などのコストが上がる一方で、競争が激しいため簡単には値上げできておらず、食品では収益性を高めることが難しくなっています。
ニトリではさらに分かりやすい変化が起きています。
直近では粗利率そのものは改善し、客単価も上昇しました。ですが、既存店客数は大きく減少しています。
つまり、「利益を確保するために価格を上げること」と、「顧客に来店してもらうこと」の両立が難しくなってきています。
特に家具のような耐久消費財は、価格が上がれば「今年は買わなくてもいい」と購入そのものを先送りできます。
食品なら購入量を減らす。
コンビニならスーパーへ行く。
家具なら買い替えを延期する。
商材によって行動は違いますが、価格が一段上がったことで消費者側が明確に反応する局面に入っていると考えられます。
つまり、少なくとも日常消費やマス市場では、「値上げすれば売上が伸びる」から、「値上げ後でも選ばれる理由が必要」というフェーズへ変化してきています。
一方で高額消費は伸びている
ですが、全ての消費者が節約しているわけではありません。
その対極にいるのが高島屋です。
国内富裕層による高額品需要は拡大しましたし、訪日客による高額消費も大きく伸びています。
つまり現在の小売市場では、「少しでも安く買いたい」という消費と、「価格よりも欲しい商品や体験を優先する」という消費が、以前より明確に分かれてきている可能性があります。
この変化を考えると、「平均的な消費者」に向けて同じ商品を大量に販売するだけでは成長が難しくなります。
誰を顧客にするのか。
どの価格帯を狙うのか。
どのような価値を提供するのか。
こういった戦略の重要性が以前より高まっているということです。
国内で店舗を増やすだけでは成長しにくい
もう1つの大きな変化が、国内市場の成熟です。
日本では人口減少が進んでいます。
さらに、多くの小売業態ではすでに全国へ店舗網が広がっていますし、ECも普及しました。
もちろん地域や業態によって出店余地は残っています。
ですが人口も消費市場も大きく拡大していた時代と比べれば、
新しい店舗を出す
↓
新しい顧客が増える
↓
売上が伸びる
という単純な成長は難しくなっています。
ニトリはこの変化を非常に分かりやすく示しています。
2013年には300店舗だった店舗網を、その後900店舗を超えるまで増やし、大きな成長を続けました。
ですが国内店舗網が十分に広がれば、その方法だけでこれまでと同じ成長率を維持することは難しくなります。
つまり、国内小売企業は「店舗数を増やす」以外の方法で成長を作る必要が出てきているわけです。
そして6社の成長戦略を見るても、単純に店舗を増やすだけではないそれぞれ違った成長戦略を明確に描くようになっています。
ファーストリテイリングは「売る地域」を広げる
最も分かりやすい成長戦略がファーストリテイリングです。
国内市場が成熟したのであれば、海外へ行く。
シンプルですが非常に強力な方法です。
とはいえ、どの小売企業でも同じことができるわけではありません。
ユニクロの商品は、ファッション性の高いトレンド商品だけではなく、ヒートテックやエアリズムなど日常的に使う定番商品が中心です。
さらにSPAによって商品企画、生産、物流、販売までを一貫して管理しています。
つまり、国内で成功した商品と仕組みを海外へ横展開しやすい企業です。
国内ではすでに大きなシェアを持つ一方、欧米ではまだシェアが小さい。
そこで数%のシェアを取ることができれば、現在とは全く違う事業規模になります。
ファーストリテイリングは、国内で完成させた仕組みを世界へ持っていくことで成長を目指す企業です。
セブン&アイは「海外で手に入れた規模」を利益に変える
同じ海外展開でも、セブン&アイはファーストリテイリングとは少し違います。
ファーストリテイリングが自前で店舗網を増やしているのに対して、セブン&アイはM&Aによって米国の巨大な店舗網を取得しました。
つまり、すでに規模自体は持っています。
これから重要なのは、その店舗をどれだけ高収益にできるかです。
米国のコンビニはガソリン販売への依存度が高く、日本のセブン‐イレブンのようなフレッシュフードや中食の比率はまだ低いです。
そこで日本で培ってきた食品開発力やPBなどを米国へ展開できれば、1店舗当たりの収益を引き上げる余地があります。
つまりセブン&アイは、海外で規模を作る段階から、海外で手に入れた規模を利益へ変える段階へ移っている企業だと考えられます。
高島屋は「売る相手」を変える
高島屋はさらに違います。
海外へ大量出店するわけでも、店舗数を大きく増やすわけでもありません。
国内の成熟した百貨店市場で、売る相手を変えることで成長しています。
従来の百貨店は、中間層の所得拡大とともに成長した業態でした。
幅広い顧客が衣料品、食品、家具、贈答品などを百貨店で購入することで大きな売上を作っていました。
ですが、その市場は長期的に縮小しました。
そこで現在の高島屋は、外商顧客を中心とする国内富裕層やインバウンドなど、高額消費を行う顧客を強く取り込んでいます。
市場全体が縮小しても、その市場の中で成長している顧客層へ移れば企業は成長できます。
高島屋は、より多くの人に売るのではなく、より消費余力のある顧客に売ることで成長する企業へ変化しようとしています。
ニトリは「来店する理由」を増やす
そして国内市場の成熟に対して、また違った戦略を描いているのがニトリです。
家具という商品には大きな弱点があります。
購入頻度が低いことです。
どれだけニトリが好きでも、毎月ベッドやソファを購入する人はいません。
これまでは店舗数を増やすことで、新しい地域の顧客を獲得できました。
ですが国内店舗網が十分に広がってくれば、次に必要になるのは既存顧客が店舗へ来る回数を増やすことです。
そこでニトリは、新商品の比率を高めると同時に、家電、アパレル、バッグ、キッチン用品、季節商品などへ品揃えを広げています。
家具は数年に一度しか買わなくても、キッチン用品や衣料品ならもっと頻繁に購入します。
家電を扱えば、一度の買い物で大きな金額を取れる可能性もあります。
つまりニトリは、「家具が必要だからニトリへ行く」から、「何か面白い商品があるかもしれないからニトリへ行く」という店舗へ変わろうとしています。
新しい顧客を獲得するだけではなく、既存顧客の来店頻度そのものを高める戦略です。
イオンは「1人の顧客との取引範囲」を広げる
この考え方をさらに大規模に進めているのがイオンです。
イオンにはすでに国内最大級の顧客基盤があります。
多くの人が日常的に食料品や日用品を購入するため、イオンの店舗を利用しています。
ですが食品小売だけでは利益率が低い。さらに現在のインフレ環境では値上げも難しい。
そこで、食品を買いに来る顧客に対して、
ドラッグストア
金融
ショッピングモール
映画
アミューズメント
など、より幅広いサービスを提供しています。
ある意味、スーパーは巨大な顧客獲得装置でもあります。
日常生活の中で頻繁にイオンへ接触してもらい、その顧客との取引をグループ全体へ広げることで利益を作るわけです。
ニトリが家具から家電やアパレルへ広げることで「来店頻度」を高めようとしているのに対して、イオンは生活全体へサービスを広げることで「顧客との取引範囲」を広げています。
そして現在は、その巨大な規模を活用してPBや共同調達、物流改革といったコスト面の改善も進めています。
そして、このコスト面の改善をさらに食料品などの値下げに使おうとしている点も特徴的です。食料品の収益性を高めるだけでなく、価格を集客装置としてさらに強く機能させようという戦略です。
つまりイオンは、新しい顧客を増やすだけではなく、既存顧客との関係を広く深くすることで成長する企業です。
ZOZOは「既存の顧客基盤の生産性」を高める
ZOZOも考え方としては、この延長線上にあります。
ただしイオンやニトリと違い、ZOZOが持っている最大の資産はリアル店舗ではありません。
約1300万人のEC顧客、購買データ、ブランドとの関係、物流基盤です。
国内ファッションECの普及だけで高成長を続けるのが難しくなれば、この既存基盤をより効率的に使う必要があります。
物流を自動化して、1件当たりのコストを下げる。そこで生まれた利益を顧客獲得へ再投資しシェアを拡大する。
既存顧客にファッションだけではなく化粧品などを買ってもらう。
さらに海外へも基盤を展開する。
イオンがリアル店舗を起点とした経済圏を作っているとすれば、ZOZOはデジタル上の顧客基盤を起点に経済圏を広げようとしているとも考えられます。
ZOZOは、すでに持っている顧客・データ・物流基盤から得られる利益をどこまで増やせるかが重要な企業です。
小売企業の競争は「店舗数」から「持っている資産の活用」へ
こうして6社を並べてみると、国内の小売市場が成熟したからといって、小売企業の成長余地までなくなったわけではないことが分かります。
ただし、成長方法はこれまでより複雑になっています。
ファーストリテイリングは、売る地域を海外へ広げる。
セブン&アイは、海外で取得した巨大な店舗網の収益性を高める。
高島屋は、売る相手を富裕層やインバウンドへ変える。
ニトリは、売る商品の範囲を広げ、顧客の来店頻度を高める。
イオンは、1人の顧客との取引範囲を生活全体へ広げる。
ZOZOは、すでに持っている顧客・物流・データの生産性を高める。
同じ小売企業でも、成長の作り方は全く違います。
そしてこの違いを考えると、小売企業を見る際のポイント自体も変わってきているように思います。
もちろん店舗数、客数、客単価は今でも重要です。
ですが、それだけを見ていると企業の成長力を十分に把握できないケースが増えています。
例えばニトリを見るなら、店舗数だけではなく「家具以外を買うために何回来店してもらえるか」が重要です。
イオンなら、「スーパーの客をグループ内の何事業へつなげられるか」。
ZOZOなら、「1300万人の顧客基盤を別の商品やサービスへどれだけ展開できるか、コスト改革で生まれた余剰をシェア拡大につながれらるか」。
セブン&アイなら、「すでに持っている米国の店舗網をどれだけ高収益化できるか」。
つまり重要なのは、企業がこれまで何を積み上げてきたのかを見ることです。
店舗網なのか。
ブランドなのか。
顧客との関係なのか。
物流なのか。
データなのか。
商品開発力なのか。
そして、その積み上げてきた資産を、次の成長へどのように使おうとしているのか。
人口も市場も拡大していた時代であれば、優れた店舗を作り、それを増やすだけでも大きな成長が期待できました。
ですが市場が成熟した現在は、単純に店舗を増やすだけではありません。
「新しい顧客をどれだけ増やせるか」だけではなく、「すでに持っている顧客との接点をどれだけ増やせるか、深くできるか」が重要になっています。
そして同時に、その顧客基盤や店舗網、物流網、ブランドといった過去に積み上げた資産を、新しい市場や商品へ転用できるかも重要です。
国内小売市場が成熟したことで、小売企業の競争は、
「規模をどれだけ大きくできるか」という競争から、「持っている規模や顧客基盤をどれだけうまく使えるか」という戦略の競争へ変わってきている。
今回取り上げた6社の違いを見ると、そんな変化が見えてきます。
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