自動車業界編:本田技研工業【7267】自動車会社なのに、利益の主役はバイク ホンダの強さと苦戦の理由
事業内容
それではまず、事業内容から見ていきます。
ホンダの主な事業セグメントは以下の4つです。
①二輪事業
・バイク、ATV(四輪バギー)、サイド・バイ・サイドなどの開発・製造・販売
②四輪事業
・自動車や関連部品の開発・製造・販売
③金融サービス事業
・自動車を中心としたローンやリース、販売店向け金融など
④パワープロダクツ及びその他の事業
・発電機や芝刈機などのパワープロダクツ、航空機や航空機エンジンなど
バイクと自動車を中心に、それらの販売を支える金融サービス、さらに発電機やHondaJetなども展開しています。
セグメント別の構成

続いて2026年3月期のセグメント別の構成は以下の通りです。
売上高
①二輪事業:18%
②四輪事業:64%
③金融サービス事業:16%
④パワープロダクツ及びその他:2%
営業利益
①二輪事業:7319億円
②四輪事業:425億円 (EV戦略の見直しに伴う▲1兆4536億円の損失を除く)
③金融サービス事業:2755億円
④パワープロダクツ及びその他:▲107億円
売上は四輪事業が主力ですが、利益面では二輪事業が圧倒的な主力となっており、二輪事業と比べると、四輪事業の収益力は非常に低いことが分かります。

金融サービスも四輪車のローンやリースが中心ですから四輪事業も重要ですが、現在のホンダでは二輪事業が利益とキャッシュ創出を支える事業となっています。

また、地域別の販売台数は上記の画像のようになっており、二輪車は圧倒的にアジア、四輪車は北米が中心です。
なのでホンダは、二輪ではアジアを中心とした新興国、四輪では北米や中国の市況に影響を受けやすい企業です。
なぜ二輪事業はこれほど利益を稼げるのか
さて、2026年3月期における二輪事業の営業利益率は18.2%、四輪事業は、EV関連損失を除いても営業利益率はわずか0.3%です。
なぜこれほど差があるのでしょうか。

その理由の1つが、ホンダの圧倒的な事業規模です。
ホンダの二輪販売は年間2000万台を超え、世界市場の約4割を占めています。
特にインド、インドネシア、ベトナム、タイなどの新興国で強く、巨大な販売・生産網を持っています。
新興国の二輪車は低価格商品が中心で価格競争力が重要ですから、この圧倒的な規模による大量生産や部品共通化、調達面でのスケールメリットが競争力につながっています。

さらに、新興国の二輪市場そのものが成長市場です。
人口が増え、経済が成長していけば、
徒歩や公共交通
↓
低価格の二輪車
↓
より高性能・高単価な二輪車
↓
自動車
と、所得増加に伴って利用するモビリティが変化し、台数の増加に加えて、単価も上昇していきます。
ホンダ自身も、アジアや中南米でこうした「ステップアップ需要」が拡大するとしています。

そんな中で世界の二輪市場は現在の年間約5000万台から2030年には約6000万台へ拡大すると見込んでおり、最大市場のインドではホンダの年間生産能力を現在の625万台から2028年に約800万台まで増やす計画です。

また2019年3月期時点では利益のほぼ全てをアジアで稼いでいましたが、近年は南米や先進国での大型二輪販売も拡大しており、収益源の地域分散も進んでいます。
新興国の経済成長による値上げの効果だけでなく、先進国などの高収益な市場の拡大もあり、2019年3月期から2025年3月期では利益率は13.9%から18.3%へ改善しています。
圧倒的な規模、成長する新興国、高付加価値化が二輪事業の強みだということです。
二輪事業に関しては今後も期待できる状況にいると個人的には考えています。
業績
そんなホンダの2017年3月期から2026年3月期までの10年間の業績を見てみましょう。

コロナ禍での停滞はありつつも、売上は大きく伸びています。
一方で利益は2010年代後半から低迷し、2024年3月期に一気に過去最高水準まで回復したものの、その後再び悪化し2026年3月期には巨額赤字となりました。
なぜこのような推移になったのでしょうか。
長期間苦戦していた四輪事業
大きな要因は四輪事業です。
2010年代後半の四輪事業は、地域ごとに車種や仕様を増やしたことで開発・生産が複雑化し、固定費の重い構造となっていました。
さらに電動化や自動運転など次世代技術への研究開発費も増加し、販売規模の大きさに比べ利益が出にくい状況が続きました。
そこに自動車販売の減少や円高、コロナ禍、半導体不足による生産停滞も重なり、四輪事業の低収益が続き、市場環境の悪化によって2020年代前半の企業全体の利益面の停滞にもつながってます。
一方で、固定費負担の増加に対応するため2019年以降は、車種や仕様の削減、部品共通化、生産拠点再編、固定費削減などの構造改革を進めていました。
その結果、損益分岐点となる工場稼働率は約90%から約80%まで改善していました。
そこに2024年3月期は半導体不足が解消し販売が回復しました。
加えて円安や主力の北米市場で自動車の供給が不足しディーラーへの販売奨励金の支払いが歴史的な低水準だったことも追い風となりました。
その結果、四輪事業は2023年3月期の▲166億円から、2024年3月期には5606億円まで急回復しています。
長期間の課題だった四輪事業がようやく高収益化し、高収益な二輪+復活した四輪+安定した金融という非常に強い利益構造になったことで、2024年3月期は過去最高益となったわけです。
中国市場で急速に競争力が低下
ところが、この状況は長く続きませんでした。
最初に問題が表面化したのが中国です。
中国での四輪販売は2024年3月期の122.1万台から大きく減少。
2026年3月期も四輪全体の販売が371.6万台→338.7万台へ減少する中で、アジアだけで25.3万台減少し、そのうち19.9万台を中国が占めています。

背景には、中国の自動車市場で起きた急速なEV化があります。
BYDをはじめとする中国メーカーが急成長し、その性能だけでなく、圧倒的な低価格や、補助金などによる国家支援もあって、外資系メーカーが軒並み低調となっています。
そのような環境の中でホンダも苦戦を強いられています。
市場環境自体が変わってしまい中国市場での回復は極めて難しくなっていると考えられます。
EVに力を入れすぎたことが既存事業にも悪影響
さらに大きな問題となったのがEV戦略です。
ホンダは2040年までにEV・FCEVの販売比率を100%にする方針を掲げ、北米でのEV生産体制やバッテリー供給網を整備するなど積極投資を進めていました。
2024年には2030年までに電動化やソフトウェア関連へ10兆円を投資する方針も示しています。
ですが市場環境は想定通りには進みませんでした。
米国では環境規制やEV支援策の見直しによってEV市場の成長が鈍化。
一方、中国ではEV市場自体は拡大したものの、中国メーカーとの価格やソフトウェア競争で苦戦しました。
つまり、米国ではEV市場が想定ほど伸びず、中国では市場は伸びたものの競争に勝てなかったということです。
さらにホンダ自身、EV開発へ経営資源を集中した結果、アジアで既存のガソリン車やハイブリッド車の商品競争力が低下したとしています。
EVが想定通り成長しなかっただけでなく、その投資が既存事業にも悪影響を与えてしまったわけです。
こういった状況の中で2025年3月期は改めて停滞します。
1兆円を超えるEV関連損失

そこでホンダは2026年3月、北米で予定していた「Honda 0 SUV」「Honda 0 Saloon」「Acura RSX」の開発・投入中止を決定しました。
さらに中国事業でも競争環境悪化を受けて資産価値を見直します。
その結果、2026年3月期にはEV関連で1兆4536億円もの営業損失を計上。
ホンダ全体でも営業利益は1兆2135億円から▲4143億円へ転落しました。
EVの見直しと中国の低迷という大きな市場環境の変化によって大幅な赤字となるほどに苦戦した事が分かります。

とはいえ、この赤字をそのままホンダの現在の収益力だと考えるのも適切ではありません。
EV関連損失を除くと、2026年3月期の調整後営業利益は1兆393億円あり、二輪事業に関しては過去最高益です。

二輪は販売台数でも前期比で+7.4%とアジアを中心に成長しています。二輪を中心に稼ぐ力は大きいということです。

さらに四輪事業は、EV損失を除いても営業利益は425億円しかありませんが、この最大の要因は米国の関税による悪影響が3316億円です。
事業面では、販売奨励金増加や販売台数減少はあるものの、それは売価改定やコスト改善の影響+2230億円で打ち返せています。
事業面は二輪車は好調ですし、四輪車も継続して続けている構造改革によって事業自体の収益性は改善しているということです。
EV市場の変化や米国関税など外部要因に左右されやすい状況ではありますが、そういった影響が落ち着けば一定の業績改善が期待できると考えられます。
今後はEV一本足からハイブリッド重視へ
また、ホンダは戦略を大きく変えています。

EVを完全に諦めるわけではありませんが、短中期的には需要が強いハイブリッドへ経営資源を大きく振り向けるとしています。
2027年から次世代ハイブリッド車を投入し、2030年3月期までに北米を中心にグローバルで15車種を展開する計画です。

次世代ハイブリッドシステムでは、2023年に投入したシステムと比べて30%以上のコスト削減を目指すとしており、収益性の高いハイブリッドに積極投資していることが分かります。

さらに北米では全ての自動車工場でハイブリッド車を生産可能にし、EV向けに用意していた生産余力もガソリン車やハイブリッド車へ振り向けるとしており、EV用バッテリー工場の一部もハイブリッド用に転換するとしています。
主力の北米では特に、EVからの大幅な転換を進めようとしている事が分かります。

さらに、投資配分も大きく変わります。
2029年3月期までの3年間では、
・EV関連:約8000億円
・ソフトウェア:約1兆円
・ガソリン車・ハイブリッド:約4.4兆円
を投資する方針です。
一時期のEV中心の戦略から大きく変化したことが分かります。
つまりホンダは、既存事業で稼ぎながら一気にEVへ移行する戦略から、まず二輪とハイブリッドで利益を確保し、EVは市場の成長速度を確認しながら投資する戦略へ変化したということです。
また中国でも現地企業の部品や技術、プラットフォームを積極的に活用し、開発コスト・期間・工数を半減する「Triple Half」を進めることで収益性の改善を進めるとしています。
今後の四輪事業では、
①ハイブリッドでどこまで利益を取り戻せるか
②北米の関税影響をどこまで抑えられるか
③中国で商品・コスト・開発速度の競争力を取り戻せるか
が特に重要になりそうです。
直近の業績
最後に直近、2027年3月期1Qの業績を見ていきましょう。

売上高:6兆615億円(+13.5%)
営業利益:5308億円(+117.4%)
純利益:4509億円(+129.3%)
大幅な増収増益となり、営業利益は非常に高い水準まで回復しています。

セグメント別の営業利益は、
①二輪事業:2340億円(+449億円)
②四輪事業:1921億円(+2217億円)
③金融サービス事業:1058億円(+208億円)
④パワープロダクツ及びその他:▲11億円(▲9億円)
となっており、二輪事業も好調で、四輪事業も黒字化し大きく改善しています。

二輪事業は円安に加えて、インドやブラジルにおける販売面の好調もあって増益を達成しています。

四輪事業に関してはEV関連損失があった反動や、円安による為替影響。関税影響の改善が大きいです。
これまで構造改革を継続して取り組み続けてきましたから、関税影響の減少やEVによる損失が無くなったことで、以前と比べて四輪事業の収益性が向上していることが再び見え始めた決算だといえます。

そんな中で2027年3月期の通期予想も、売上高24兆1500億円、営業利益6500億円、純利益4000億円と黒字転換を見込んでいます。
ということで、ホンダは2026年3月期に巨額赤字となりましたが、その最大の理由は高収益な二輪事業が崩れたからではありません。
むしろ二輪事業は過去最高益を更新し続けています。
問題は、ホンダが次の成長の柱として巨額の資金を投入したEV戦略が、米国では市場の成長鈍化、中国では競争力不足によって想定通りに進まなかったことです。
そしてそのEVへの集中が、既存の四輪車の商品競争力にも悪影響を及ぼしていました。
そこで現在は、二輪という非常に強い利益基盤を維持しつつ、短中期ではハイブリッドへ経営資源を戻し、四輪事業を立て直そうとしています。
2024年3月期に一度は5606億円まで回復した四輪事業ですから、収益力を取り戻せる可能性自体は十分にあります。
一方で、中国では自動車の競争ルール自体が急速に変化していますし、北米では関税という新たなコスト負担もあります。
世界シェア4割を持つ二輪という圧倒的な強みを活かしながら、変化の激しい四輪事業をどこまで立て直せるのか。
今後のホンダではそこに特に注目です。
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