小売り業界編:セブン&アイHD【3382】拡大したアメリカ事業の規模を利益に変えられるのか
事業内容
それではまずは事業内容から見ていきましょう。

セブン&アイHDの事業セグメントは以下の3つです。
①国内コンビニエンスストア事業
②海外コンビニエンスストア事業
③その他
以前はイトーヨーカ堂を中心としたスーパー事業、セブン銀行などの金融事業、そごう西武などの百貨店、赤ちゃん本舗やロフトといった専門店事業なども幅広く展開していました。
しかし近年は大規模な事業再編を進め、2025年6月にはセブン銀行を、同年9月にはイトーヨーカ堂などを傘下に持つヨーク・ホールディングスを連結対象から外しています。
なので、事業セグメントに関しても明確にコンビニを中心とした企業へと変化しています。

2026年2月期は期中に連結除外されたため、上期を中心にスーパーストア事業や金融関連事業の業績も含まれています。
ですが、その時点でも
売上では海外コンビニ事業が81.7%、国内コンビニ事業が8.7%
EBITDAでも海外コンビニ事業が58.9%、国内コンビニ事業が31.8%
を占めており、国内外のコンビニだけで9割ほどを占めています。
2027年2月期からは、連結除外の影響でさらにその比率は高まりますから、国内外のコンビニが大半を占め、特に海外コンビニを主力とする企業だと分かると思います。
ちなみに、日本は売上規模が小さいのに利益の規模が大きいのは、国内はフランチャイズ展開が中心のためです。
世界8万7000店を展開するセブン‐イレブン

そして海外コンビニが主力となっていることからも分かる通りで、実はセブン&アイはかなりのグローバル企業であり、世界最大級のコンビニチェーンです。
2026年2月末時点の世界の店舗数は8万6939店舗。
そのうち日本は2万1927店舗ですから、全体の約4分の3は海外となっています。
主な海外市場では、
タイ:1万5945店舗
韓国:1万1040店舗
台湾:7650店舗
フィリピン:4491店舗
マレーシア:2735店舗
など、アジア各国にも非常に多くの店舗があります。
さらに、北米でも1万2812店舗を展開しており、アメリカ市場でも最大手のコンビニチェーンです。
ただし、ここで重要なのは、世界8万7000店舗の全てをセブン&アイ自身が運営しているわけではない点です。
日本や北米、オーストラリアなどではグループ企業が直接事業を展開していますが、タイや韓国、台湾など多くの地域では、現地企業へエリアライセンスを与え、ロイヤリティを受け取る形で展開しています。
そのため、世界で店舗数が多い地域=セブン&アイの業績への影響が大きい地域というわけではありません。
なので、業績面においては海外コンビニ事業の影響が大きい地域がどこなのかというと、直営店を持ち店舗数の多いアメリカとなっています。
なぜアメリカ事業が最大なのか
セブン&アイがアメリカで最大のコンビニチェーンとなったのには、もともとセブンイレブンがアメリカのブランドだったというだけでなく、長年にわたり行ってきた積極的なM&Aが影響しています。
特に大きかったのが2021年5月のSpeedway買収です。
買収額は約210億ドルで、約3900店舗を一気に取得しました。Speedwayは全店舗にガソリンスタンドを併設していたため、この買収によって米国の店舗網だけでなく、ガソリン事業も大幅に拡大しています。
さらに2024年には、米国西部を中心とするSunoco-Stripesの約200店舗も取得しています。
こうしたM&Aの積み重ねによって、現在の7-Eleven, Inc.は米国コンビニ市場でも最大手となっています。
2025年末時点の市場シェアは8.0%で、2位のCouche-Tardの4.0%を上回っています。
とはいえ、米国市場自体は小規模事業者が非常に多い分散市場なので、トップでも8%程度というのも特徴です。
つまり現在のセブン&アイは、日本のセブン‐イレブンを主力とする企業というより、日本と米国に巨大な事業基盤を持つグローバルコンビニ企業と捉えた方が実態に近いわけです。

さらに、米国の店舗はガソリンスタンドを併設する店舗が多いため、米国事業の拡大によってセブン&アイは原油相場やガソリン価格、為替の影響も強く受ける企業になっています。
業績推移
続いて、ここ10年間ほどの業績を見てみましょう。

2021年2月期以前は5~6兆円台、営業利益も3000~4000億円ほどで推移していましたが、2022年2月期には営業収益8.7兆円、翌2023年2月期には11.8兆円まで急拡大し、営業利益も2023年2月期と2024年2月期には5000億円を超え好調です。
ですが、その後は伸び悩み、2026年2月期は営業収益10.4兆円、営業利益4229億円となっています。
急拡大から直近は停滞と大きな変化が起きていた事が分かります。
M&Aで企業そのものが変化
では、なぜこれほど大きな変化が起きたのでしょうか。
まず、急拡大に関しては先ほど見たSpeedway買収が大きく影響しています。
2021年に約3900店舗を取得したことで、翌期以降は米国事業の売上や利益が大幅に増加しました。
さらに当時は円安が進み、原油・ガソリン相場も大きく上昇しました。
米国事業はガソリン販売の規模が大きく、ガソリン相場の上昇時には安い時期に仕入れたガソリンを高い時期に売りやすくなるため、売上や利益を大きく押し上げています。
7-Eleven, Inc.単体で見ても、2015年度には1兆8000億円ほどだった営業収益が、Speedway買収後には5兆円を超え、その後は8兆円を超える規模まで拡大しています。
つまり、この10年間のセブン&アイの成長は、既存のセブン‐イレブンが自然に成長しただけではなく、積極的なM&Aによって米国事業の規模そのものを大きくした影響が非常に大きかったということです。
そして、この買収で為替や原油・ガソリン相場の影響を受けやすくなったため、円安と相場高騰が同時に進んだ2023~2024年2月期は好調だったわけです。
その後は停滞したわけですが、これには国内外のコンビニ事業が共に苦戦したことが影響しています。
国内外で消費環境が悪化
まず国内では、インフレが進む中で節約志向が強まりました。
さらに、SNSを中心にブランドイメージが毀損した影響も出て既存店売り上げが苦戦しています。
実際に、セブン‐イレブン自身も、客数減少の要因の一つとして「セブンの商品は高い」というイメージがあったことを認めています。
2025年には、高価格というイメージや商品・プロモーションの保守化、過去にSNSなどで話題になった弁当容器への批判などもブランド好感度低下の要因として挙げています。
コンビニ自体がスーパーと比較すると価格は高いですから、インフレと節約志向によって事業環境が悪化した事に加えて、イメージの悪化もあり国内事業が停滞したということですね。

さらに、米国でも物価高の影響を受け、特に低所得者層を中心に食品や生活必需品への節約志向が強まった影響が出ました。
2026年2月期も、米国の既存店商品売上は通期で前年を下回っています。
米国経済自体は好調ですが、明らかにインフレと格差拡大の問題は大きくなっており、多様な層の日常的な買い物に使われるコンビニにとっては、事業環境は良くないということです。
つまり、巨額のM&Aによって米国事業を成長させた一方で、その後は日本でも米国でも消費者の節約志向という課題に直面し、停滞したというのがここ数年の状況です。
国内事業では改善策が進む
このような状況ですから、現在は収益性改善の取り組みを積極的に進めています。

まず国内では、苦戦の要因となっていた価格イメージや集客の改善を進めています。
単純に低価格商品を増やすだけでなく、
値ごろ感のある商品の強化
出来立て商品の拡大
商品開発とマーケティングの連携強化
製造・物流の効率化、コスト最適化による価格引き下げ
など、多方面から改革を進めています。

その結果、既存店の売上は2026年2月期あたりから改善が見られ始めています。
一定の取り組みの成果が見られているということですね。
とはいえ、その一方で粗利率は悪化傾向が続いています。イメージ払しょくのために値ごろ感のある商品を増やし、既存店売上は改善しているものの、一方で粗利率は悪化してしまうという状況だということです。

なので、今後は製造や物流の効率化、コスト最適化など、構造改革の取り組みによって売上の増加と利益の成長を同時に実現していくことが出来るかがポイントになっていると考えられます。
この点は今後の国内事業を見る上での注目点です。
最大のポイントはアメリカ事業
そして、今後のセブン&アイ全体を考える上で最も重要なのは、やはり最大市場のアメリカの収益性改善です。

そのために進めている大きな取り組みが、食品とガソリンの2つの改革です。
日本型の「食の強いコンビニ」へ
米国のコンビニは、日本のコンビニと比べると食品の存在感が小さいです。


セブン&アイはここに大きな改善余地があると考えており、フレッシュフード、PB、店内レストランなどを強化しています。
具体的には2030年までに、以下の目標を掲げています。
フレッシュフード売上を10億ドル増加
レストランを1100店舗増加
PB売上を約13億ドルから約26億ドルへ倍増
これまでの米国セブン‐イレブンは「ガソリンを入れるついでに商品を買う場所」というイメージが強かったですが「食事を目的としても来店する店」へ変えようとしているわけです。
すでに米国ではLaredo Taco、Speedy Cafeなどの飲食ブランドを併設しており、こうした店舗は通常店舗より日販や客数が大きいとしています。
日本のセブン‐イレブンが強みを持ってきた「食」のノウハウを、米国の巨大店舗網に移植できれば、非常に大きな成長余地がありますのでこの取り組みは注目です。
ガソリン事業もむしろ強化

そしてもう1つのポイントは、ガソリン事業でも大きな改革を進めている点です。
現在の小売り中心の事業から、調達→物流・ターミナル→ブレンディング→店舗販売というサプライチェーン全体を垂直統合した事業に転換しようとしています。
これによって2030年までに年間約4億ドルのEBITDA上積みを目指しています。
トランプ政権下での政策の転換によって、以前想定されていたよりもガソリン車が長期間残る可能性は高まっており、これもまた大きな収益機会となる可能性があるため注目です。
さらに、ガソリン需要が長く残れば食品戦略にも好影響です。
給油によって店舗へ来る客数を維持しながら、その顧客にフレッシュフードやPB、飲食を購入してもらえれば顧客の確保にも当然役立ちます。
ガソリン車の政策転換という追い風を活かせるかがポイントとなっています。
ということで、世界8万7000店舗を抱える巨大な7-Elevenブランドを持ち、事業もコンビニへ集中したセブン&アイですが、今後は、その中でも最大の米国事業を「大きい事業」から「高収益な事業」に変えられるのか。
特に食品とガソリンの2つの改革がどこまで成果を出すのかに注目です。
直近の状況
それでは最後に、直近の業績を見ていきましょう。
今回見ていくのは、2027年2月期の第1四半期です。

営業収益:2兆3788億円(▲14.3%)
営業利益:1050億円(+61.4%)
経常利益:1007億円(+89.1%)
純利益:606億円(+23.6%)
となっており、減収ですが大幅増益となっています。

そして減収に関しては、先ほど見たヨーク・ホールディングスやセブン銀行の非連結化による影響が大きいです。
なので、その影響を除いた実質ベースでは、営業収益は+2.4%、営業利益は+122.4%となっており、事業面は好調だと分かります。

もう少し詳しくセグメント別の営業利益の前期比は
①国内コンビニエンスストア事業:▲22億円
②海外コンビニエンスストア事業:+569億円
となっており、好調の要因は海外事業だと分かります。
国内では集客と粗利が改善

とはいえ、国内も不振とは言えません。
既存店売上が前年同期比+2.0%となりましたし、これまで低迷していた荒利率も0.3ポイント改善して32.0%となりました。
「セブンカフェ ベーカリー」や「セブンカフェ ティー」といった出来立て商品の拡大や、商品・販促の見直しなど、これまで進めてきた取り組みの効果が少しずつ表れていると考えられます。

それでも利益面が悪化したのは、販管費の増加です。
店内調理設備や次世代店舗システムへの投資、販促の強化、人件費やシステム関連費用の増加などの影響が出ています。
事業面の改善は見られ始めていますから、今後は集客と粗利の改善を続けながら、先行投資の負担を吸収して利益成長につなげられるかが注目です。
アメリカも商品販売は改善
続いて、最大の注目点であるアメリカです。

米国内既存店商品売上は前年同期比+1.4%となりました。
2026年2月期は、
1Q:▲1.0%
2Q:▲0.8%
3Q:+0.5%
4Q:▲0.6%
と苦戦が続いていましたから、直近では商品販売にも改善が見られています。アメリカでも取り組みが少しずつですが成果を見せ始めている可能性がありますから、引き続き注目です。

とはいえ、営業利益の変動要因を見てみると
商品等:▲6.9億円
ガソリン:+533億円
販管費等:▲45億円
為替:+24億円
となっており、増益の大半はガソリンによる影響です。

ガソリン市況の変動によってガロンあたりの荒利率(CPG)が大きく増加したことが、業績を押し上げました。
中東情勢の不安定化によるガソリン価格の高騰によって、安い時期に仕入れていたガソリンを高く売ることが出来たことで業績を押し上げていたということです。
そのため、今回の決算だけを見て「アメリカ事業の収益性改善が完了した」と考えるのは早そうです。

実際にセブン&アイ自身も、下期については燃料市況が平準化していくことを想定しています。
第1四半期の好調を受けて通期の営業利益予想を200億円上方修正したものの、下期はガソリンによる大きな好影響が続くことを前提にはしていません。
現在も中東情勢は不安定な状況が続いていますし、相場の動き次第では上振れ余地もあるかもしれませんが、そういった相場変動要因ではなく、現在進めている垂直統合化の取り組みによる収益拡大が続いているかどうかが、注目です。
今後の注目点
ということで、直近の決算を見ると、国内では客数や既存店売上が改善し、アメリカでも既存店の商品販売がプラスに転じるなど、これまで進めてきた改革には一定の成果が見え始めています。
一方で、アメリカ事業の大幅増益はガソリン市況による影響が非常に大きく、食品やPB、レストランといった商品面の改革が利益を大きく押し上げる段階にはまだ至っていません。
今のセブン&アイは、M&Aによって世界最大級のコンビニ店舗網を手に入れる段階から、その店舗網の収益性を高める段階へ移っています。
国内では商品や店舗への投資を集客と利益成長につなげられるのか。
そして最大市場のアメリカでは、ガソリン事業の効率化を進めながら、日本で強みを持つ食品やPBを成長させ、「ガソリンを入れる場所」から「食事を買う場所」へ店舗の価値を変えられるのかに注目です。
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