医療業界編:オリンパス【7733】医療への選択と集中の成果を見せるも残る課題

日経平均採用の全銘柄の企業分析を毎年お届けするニュースレター。今回取り上げるのはオリンパスです。バブル期に行った金融投資の損失を隠すための工作を長期的に行い、その結果2011年には大規模な粉飾決算が発覚して大きな問題となりました。 それ以降は大規模な構造改革を進め大きな変化を見せている企業ですから、その現状を見ていきましょう。
妄想する決算 2026.07.28
誰でも

事業内容

それではまず、事業内容から見ていきます。

オリンパスの主な事業セグメントは以下の2つです。

①消化器内視鏡ソリューション事業(GIS):消化器系の内視鏡を主力とする事業

・消化器内視鏡システム
・超音波内視鏡
・生検や治療に使う内視鏡用処置具
・内視鏡の洗浄・消毒関連製品
・修理や保守などの医療サービス
・AIやデジタル技術を活用した内視鏡医療支援など

②サージカルインターベンション事業(SIS):呼吸器科、泌尿器科、外科向けの医療機器を主力とする事業

・泌尿器科向けの治療機器
・呼吸器科向けの気管支鏡や処置具
・外科手術用の内視鏡システム
・手術用エネルギーデバイス
・耳鼻咽喉科関連製品
・手術室のシステム関連など

消化器系の内視鏡や医療機器を展開している医療機器メーカーだと分かります。

ちなみに、オリンパスが提供している価値を大きく分けると、「早期診断」と「低侵襲治療」の2つです。

病気をより早い段階で発見し、患者の身体への負担を抑えながら治療するための医療機器を提供しているということです。

それこそ内視鏡とは、先端に小型カメラや照明が搭載された細長い管で、体内に挿入し、食道、胃、大腸などの内部をモニターに映し出して直接観察する医療機器です。

病気の早期発見だけでなく、組織の採取やポリープの切除といった治療も行われるため、患者への負担を抑えながらの治療も可能となっています。

続いて、2026年3月期の事業別の構成を見ていくと以下の通りです。

売上構成
①消化器内視鏡ソリューション事業:69%
②サージカルインターベンション事業:31%

調整後営業利益
①消化器内視鏡ソリューション事業:1644億円、利益率23.6%
②サージカルインターベンション事業:8億円、利益率0.3%

消化器系内視鏡ソリューションが売上の約7割を占める主力で、一時的な費用などを除いた調整後営業利益に関しては、ほぼ全てを稼いでいます。

消化器系の内視鏡が重要な企業だということですね。

また、2025年3月期時点での地域別の売上構成は以下の通りです。

・日本:11%
・北米:42%
・欧州:26%
・中国:10%
・アジア・オセアニア:9%
・その他:3%

海外売上比率は約90%で、特に北米と欧州の比率が高くなっています。

つまり、国内の医療市場よりも、北米や欧州の医療機関への販売動向や規制環境、為替によって業績が左右されやすい企業だということです。

主力の消化器内視鏡事業

続いて、主力の消化器内視鏡ソリューション事業について、もう少し詳しく見ていきましょう。

この事業の売上構成はおおむね以下のようになっています。

①消化器内視鏡:約55%
②消化器科処置具:約15%
③医療サービス:約30%

内視鏡本体だけでなく、処置具や修理・保守などの医療サービスも大きな規模を持っています。内視鏡システムは、一度病院へ販売すれば終わりという製品ではありません。

内視鏡を使い続けるためには、修理や保守、洗浄・消毒が必要です。

検査や治療の際には、病変の組織を採取する器具や、止血、切除などに使う処置具も利用されます。

さらに、医師が製品を扱うためのトレーニングや、診断を支援するAI・デジタルサービスも展開しています。

つまりオリンパスは、内視鏡という機械を単体で販売するだけでなく、内視鏡の導入から、検査、診断、治療、修理、洗浄、医師への教育までを一体で提供する、という事業を展開しているわけです。

市場でのポジションも強く、会社調べでは以下の順位となっています。

・消化器内視鏡:世界1位
・消化器科処置具:世界2位
・泌尿器科の上部尿路領域:世界2位
・呼吸器科:世界1位

主力の消化器内視鏡だけでなく、消化器科の処置具や呼吸器科でも有力な企業となっています。

精密な医療機器は、医師が使い慣れているか、病院内の既存システムと連携できるか、修理や保守を迅速に受けられるかが重要になります。

こうした医師との関係、サービス網、既存の内視鏡システムの普及が積み上がっているため、単純に性能や価格だけで他社製品へ切り替わりにくい事業だと考えられます。

そんな中で大きなシェアを持った製品が複数ありますので、一定の安定した需要が期待できる企業だと考えられます。

また、医療の高度化や高齢化の中で低侵襲治療の需要は拡大しており、マーケットの拡大が期待されています。

オリンパスの提供する主力製品の市場は軒並み5~8%程度の成長が見込まれています。

先進国はもちろん、新興国も経済成長と医療の高度化による需要増加が進んでおり、中南米、中東・アフリカ、インドなどの新興国市場の売上は、2021年3月期から2025年3月期にかけて年平均約26%で成長しています。

一方で、世界全体の売上に占める新興国の比率はまだ6%です。

医師へのトレーニングや医療体制の整備が必要なため短期間で急拡大する市場ではありませんが、医療インフラの整備とともに長期的な成長が期待できる市場ですから、市場の拡大にも注目です。

業績推移

事業内容が分かったところで、続いて2017年3月期から2026年3月期までの10年間の売上高と営業利益の推移を見ていきましょう。

売上高は2017年3月期の7406億円から、2026年3月期には1兆107億円まで拡大しています。

一方で、営業利益はかなり大きな変動を繰り返しています。

2019年3月期には283億円まで減少し、2023年3月期には1866億円まで拡大。その翌年の2024年3月期には514億円まで減少し、2025年3月期には1625億円まで回復しました。
そして、2026年3月期には再び971億円まで減少しています。

売上は長期的な成長を続けている一方で、利益の安定性には課題があることが分かります。

業績が変動した理由

では、なぜこれほど営業利益が変動してきたのでしょうか。

まず、2019年3月期の大幅減益には、米国司法省との司法取引に関連する費用や税務関連の引当金、カメラを扱っていた映像事業の構造改革費用などが影響していました。

その反動によって2020年3月期には利益が大きく回復しましたが、2021年3月期は新型コロナウイルスの感染拡大によって、医療機関で検査や手術が延期された影響を受けました。

その後は事業ポートフォリオの再編が進みます。

2021年にはカメラを扱っていた映像事業を売却し、2023年には顕微鏡や産業用内視鏡などを扱っていた科学事業も売却しました。

一方で、成長性と収益性の高い医療事業へ経営資源を集中しました。

その結果、以前は売上の一定部分を占めていた映像事業や科学事業がなくなった一方、医療事業の成長によって売上規模はむしろ拡大し、医療事業だけで売上1兆円規模に成長しています。

低侵襲治療の需要が高まり内視鏡の市場は拡大していますし、今後も年5%の拡大が見込まれています。

成長市場の医療、内視鏡に注力した事で成長したということですね。

一方で利益面は、2022年3月期から2023年3月期にかけては、医療事業の販売増加やコスト改善、円安の影響によって利益が大きく伸びました。

つまり、医療事業への選択と集中という戦略自体は、長期的な売上と収益性の向上につながったと考えられます。

とはいえ、この選択と集中の反動も出ています。
それが2024年3月期の品質関連問題の顕在化です。

以前は地域や工場ごとに異なる品質管理や設計手順、苦情処理システムを利用しており、世界中で発生した不具合情報を一元的に収集し、原因分析や再発防止へつなげる仕組みが十分ではありませんでした。

FDAからも、設計検証の不足、不具合傾向を把握しながら是正措置を開始しなかったこと、医療機器報告の遅れなどが指摘されています。

グローバルでの拡大の中で、品質管理の仕組みが十分には追いついていなかったということです。

結果として、製品の自主回収や市場是正措置、品質管理体制を改善の取り組みの費用、事業終了や構造改革に伴う損失などが重なり、営業利益は514億円まで減少しました。

2025年3月期は、そうした一時的な費用が減少した反動で営業利益が1625億円まで回復しています。

医療事業への集中によって事業の成長性と本来の収益力は高まった一方、品質管理や組織運営の問題によって、その収益力を安定して利益に変えられていないという推移だと考えられます。

直近の業績

そのような状況の中で、直近の2026年3月期がどのような状況だったのかは詳しく見ていきましょう。

売上高:1兆107億円(+1.3%)
営業利益:971億円(▲40.2%)
調整後営業利益:1433億円(▲24.0%)
純利益:682億円(▲42.2%)

売上高は初めて1兆円を超えましたが、営業利益は大幅減益となりました。

一時的な費用などを除いた調整後営業利益も減少しているため、事業自体の収益性が悪化していることが分かります。

ではそれがなぜか、セグメント別でもう少し詳しく見ていきましょう。

消化器内視鏡事業は増収を維持

まず、主力の消化器内視鏡ソリューション事業は以下の業績となりました。

売上高:6974億円(+3.5%)
営業利益:1364億円(▲20.5%)
調整後営業利益:1644億円(▲13%)
調整後営業利益率:23.6%

売上は増加しており、主力事業の競争力が大きく失われたわけではありません。

欧州やアジア・オセアニアが成長し、北米でも第4四半期には新型スコープや超音波内視鏡関連製品の販売が伸びました。
医療サービスも欧州を中心に安定して成長しています。

一方で、中国では地場メーカーを優遇する政策や競争激化、日本では病院の予算制約による影響を受けました。

利益面では、米国の関税、売上構成の悪化、ロボット内視鏡関連の合弁会社への投資、組織再編費用、開発資産の減損などが重なり、増収ながらも減益となっています。

中国や日本の低迷、米国の関税といった一時要因や先行投資などの影響を受けて利益面は停滞したということですね、とはいえ調整後営業利益率は23.6%ありますから、消化器内視鏡事業は依然として高収益ですから堅調な状況です。

サージカルインターベンション事業が大幅悪化

一方で、サージカルインターベンション事業は以下の通り大幅減益となりました。

売上高:3131億円(▲3.0%)
営業損失:153億円→▲150億円
調整後営業利益:236億円→8億円
調整後営業利益率:0.3%

泌尿器科や外科関連の一部製品で出荷停止が発生したほか、FDAの輸入警告や自主的な出荷停止によって▲300億円の悪影響があったとしています。

呼吸器科や欧州の泌尿器科では成長が見られましたが、出荷停止による減収や在庫関連費用、米国関税、組織再編費用などを補うことができませんでした。

つまり、品質問題が引き続き悪影響を与えており業績が悪化していたということです。

品質問題の影響が変化

また、品質管理体制を改善する「Elevate」という取り組みの関連費用は以下のように推移しています。

2024年3月期:315億円
2025年3月期:305億円
2026年3月期:211億円

品質改善プロジェクトに使う費用も業績を押し下げている状況が続いています。

この費用自体は減少していますが、それに加えてFDAの輸入警告や自主的な製品の出荷停止の発生という影響もあったということですね。

第4四半期には回復の兆し

とはいえ、4Qではサージカルインターベンション事業でも大部分の製品で出荷が再開されており、販売活動は徐々に正常化したとしています。

全ての出荷停止や規制上の問題が解消されたわけではありませんから、今後も一定の悪影響が続く可能性がありますが、今後は一定の業績改善が期待出来そうです。

2027年3月期の見通し

そんな中で実際に2027年3月期の会社予想は以下の通りで、増収増益を見込んでいます

売上高:1兆550億~1兆760億円
営業利益:1365億~1555億円
調整後営業利益:1605億~1795億円
調整後営業利益率:15.2~16.7%
純利益:955億~1090億円

事業別の調整後営業利益率の見通しは以下の通りです。

消化器内視鏡ソリューション事業:24.4~25.1%
サージカルインターベンション事業:1.6~5.4%

主力の消化器内視鏡事業では、引き続き高い利益率を見込んでいます。

一方、サージカルインターベンション事業は黒字化を見込むものの、利益率の予想には大きな幅があります。製品の出荷再開時期や販売の正常化に不確実性が残っているためです。

つまり、2027年3月期の業績を大きく左右するのは、サージカルインターベンション事業の正常化ですから注目です。

まとめ

ということでオリンパスは、カメラや科学事業を売却し、内視鏡を中心とする医療機器専業企業へと大きく変化しました。

その結果、医療事業だけで売上1兆円を超える規模まで成長しており、主力の消化器内視鏡事業は高いシェアと収益性を維持しています。

医療事業への選択と集中という大きな方向性は成功したと考えてよさそうです。

一方で、2024年3月期と2026年3月期には品質関連の問題によって大幅減益となりました。

特に直近では、品質改善のための費用だけでなく、FDAの輸入警告や自主的な出荷停止によって販売そのものが制約されました。

これは単なる一時費用ではなく、医療機器企業にとって最も重要な品質と規制対応の問題です。

今後は、

・サージカルインターベンション事業の利益率が回復するか
・FDA関連の問題や出荷停止が解消されるか
・消化器内視鏡事業が北米や欧州で成長を続けられるか
・中国市場の低迷を改善できるか
・組織簡素化によるコスト削減が進むか
・AIや内視鏡ロボットが新たな成長事業になるか

に注目です。

オリンパスの課題は、内視鏡市場が成長するかどうかではありません。主力市場の成長性と消化器内視鏡事業の競争力は十分にあります。

その強い事業基盤を、品質問題や組織運営の不備で損なうことなく、安定した利益に変えられるかが今後の最大のポイントとなりそうです。

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