食品業界編:キッコーマン【2801】国内市場が成熟でもなぜキッコーマンの成長は続くのか

日経平均に採用されている銘柄を中心に取り上げているニュースレター、今回取り上げるのはキッコーマン株式会社です。「しょうゆ」でよく知られている企業から和風調味料を取り扱う企業の現状を見ていきましょう。
妄想する決算 2026.07.16
誰でも

事業内容

それではまずは、事業内容から見ていきましょう。

キッコーマンの主な事業は以下の4つです。

①国内食料品製造・販売
・しょうゆ:各種しょうゆ
・食品:めんつゆ、焼肉のたれ、ケチャップなど
・飲料:豆乳など
・酒類:みりん、ワインなど

②国内その他
・バイオ事業、化粧品事業など

③海外食料品製造・販売
・海外でのしょうゆ、その他調味料などの製造販売

④海外食料品卸売
・北米、欧州、アジア・オセアニアなどで、東洋食品を中心とした食品の卸売

国内ではしょうゆやめんつゆ、焼肉のたれ、豆乳、みりんなどを展開しており、海外でもしょうゆを中心に製造販売を行っています。

さらに、海外では食品の卸売事業も展開しています。

セグメント別構成

2026年3月期時点でのセグメント別の構成は以下の通りです。

売上構成
①国内食料品製造・販売:1557億円
②国内その他:75億円
③海外食料品製造・販売:1495億円
④海外食料品卸売:4328億円

利益構成
①国内食料品製造・販売:99億円
②国内その他:16億円
③海外食料品製造・販売:409億円
④海外食料品卸売:307億円

売上が最大なのは海外食品卸売で、利益面が最大なのは海外食料品製造・販売となっています。
海外関連の売上は77%を占めていますし、利益面は86%を占めています。

つまりキッコーマンは、日本のしょうゆの会社というイメージが強いですが、実態としては海外でのしょうゆと食品卸売を主力とする企業だということですね。

海外事業とは

続いて主力の海外事業についてもう少し詳しく見ていきましょう。

まず、海外食料品製造・販売ですがこの売上の大半はしょうゆ事業です。例えば北米事業では売上1034億円の内1022億円がしょうゆ事業となっています。
国内では複数の調味料の製造販売を行っていますが、海外に関しては大半がしょうゆだということです。

そして、2026年3月期の海外しょうゆ事業の地域別の売上構成は以下の通りで北米が主力です。

・北米:63%
・欧州:22%
・アジア・オセアニア:14%

海外食料品製造・販売事業全体としても北米は、売上1495億円の内1034億円を占め、事業利益は409億円の内290億円を占めています。

さらに、海外食料品卸売事業を見ても北米は売上4328億円の内3156億円を占め、事業利益も307億の内246億円を占めています。

北米向けの「東洋食品の卸売り」と「しょうゆを中心とする調味料の製造販売」が主力ということですね。

そして、この両事業とも日本食の需要に影響を受けますから、近年の日本食ブームは追い風になります。

北米での日本食の人気が重要な企業だということですね。

主力の北米は利益率も高い

さらに、北米の食品製造・販売事業の事業利益率は28.0%と非常に高い利益率となっています。

国内のしょうゆは競合も多いですし、国内市場も成熟しているので、値上げや高付加価値化には限界があります。

一方で海外のしょうゆは競争環境が日本のように厳しくないですし、普段使いの調味料というよりも、「日本食・アジア食を楽しむための調味料」といった位置づけになりやすいため、価格競争に巻き込まれにくく利益率が高くなりやすいです。

そしてキッコーマンの北米におけるブランド価値も高いです。

というのも北米展開の歴史は長く、1800年代には輸出を始め、特に海外に力を入れ始めた1900年代後半以降は大きな成長を見せています。
実際に、海外におけるキッコーマンブランドのしょうゆ類の販売数量は、1974年度を100とすると2024年度には3136となっています。

つまり約50年で31倍以上に拡大しており、年平均成長率は7.1%です。

こういった長い歴史の中で、圧倒的なブランド力を持っていますから、それも高利益率に繋がっています。

加えて、長い事業展開の中で1973年にはウィスコンシン州に海外工場を設立し現地生産も行っています。
しょうゆは液体なので、輸送コストが重くなりやすい商品ですから、日本から輸出するより、需要地の近くで生産した方が効率が良いです。

圧倒的なブランド力と、現地生産のコスト抑制によって高い利益率を実現しています。

今後も現地での生産体制を作り、ブランド価値を高められる企業はそう多くは無いと考えられますので、安定した業績や高い利益率の維持が期待できると考えられます。

業績の推移

事業内容が分かったところで続いて、ここ10年ほどの業績推移を見ていきます。

売上収益は長期的に拡大が続いており、2017年3月期は4022億円でしたが、2026年3月期には7455億円となっています。

営業利益も増減ありつつですが増加傾向となっており、特に2020年代に入ってからは好調なことがわかります。
2017年3月期の328億円から2026年3月期には759億円まで拡大しています。

売上・利益ともに拡大傾向が続き2020年代に入って以降は一段高い水準で推移しているということです。

ではなぜこのような推移になっているのでしょうか

要因は大きく4つあります。

1つ目は、海外しょうゆ事業の成長です。

2016年度から2025年度までの海外しょうゆ事業の売上を見てみると、2016年度を100とすると2025年度には184となっています。

これは為替の影響を除いた現地通貨ベースですから、事業自体が約10年で1.84倍に拡大しているということです。

この中心にいるのは主力の北米事業ですが、それだけではなく成長率という点では欧州やアジア・オセアニアも重要です。

2016年度を100とした2025年度の地域別売上を見ると、北米は171、欧州は236、アジア・オセアニアは178となっています。

特に欧州は約10年で2.36倍となっており、成長余地の大きい市場だと分かります。

近年は日本食ブームによって日本食の需要が高まっていますから、その必須の調味料である「しょうゆ」も需要が高まっています。

今後に関しても、日本食の人気が続く中で各国とも事業のさらなる拡大余地は十分にあると考えられます。

2つ目は、海外食料品卸売事業の成長です。

こちらも現地通貨ベースで、2016年度を100とすると、2025年度には204となっています。約10年で2倍以上に拡大しているということです。

日本食人気が海外でしょうゆ事業の拡大にも効いていましたが、当然それだけでなく関連する食材や調味料の流通需要も増えます。

その中で、キッコーマンは海外で食品卸売事業も展開しているため、海外の食文化の広がりをしょうゆだけでなく、卸売でも取り込める構造になっているため拡大が続いています。

日本食人気が、しょうゆと卸売りの両面で海外事業に好影響を与えており好調につながっているということですね。

そして、3つ目は円安の好影響です。

キッコーマンは海外比率が高い企業でした。

特に北米事業の規模が大きいため、ドル円の影響を受けやすい企業ですから、近年の円安は業績を押し上げています。

最後に4つ目は、国内事業の価格改定と収益性改善です。

国内市場は、しょうゆ市場自体が成熟しており、大きな数量成長を期待しにくい市場です。

さらに原材料費や包装材料費、物流費なども上昇しており、以前は国内事業の収益性が大きく悪化していました。

ですが、その後は価格改定や商品構成の改善、豆乳などの成長によって一定程度は収益性が改善してきており、それも業績を押し上げています。

つまり、ここ10年のキッコーマンは、

・海外しょうゆの長期成長
・海外卸売の拡大
・円安の好影響
・国内事業の収益性改善

この4つによって業績を拡大してきたということです。

直近の業績

続いて直近の2026年3月期の業績はもう少し詳しく見ていきましょう。

売上収益:7455億円(5.2%増)
事業利益:795億円(2.9%増)
親会社の所有者に帰属する当期利益:616億円(0.1%減)

純利益は若干の減益ですが、増収で事業利益増益となっており事業面は堅調な状況です。

為替差を除いても売上収益は5.2%増、事業利益は3.6%増ですから、円安だけで伸びているわけではなく、実質的にも成長していたことが分かります。

もう少し詳しくセグメント別の事業利益の前期比は以下の通りです。

①国内食料品製造・販売:+14億円
②国内その他:+4億円
③海外食料品製造・販売:+11億円
④海外食料品卸売:+3億円

全事業が増益となっており堅調な状況にいることがわかります。

主力の北米の食料製造・販売では上期には米国関税政策によるカナダ向けしょうゆの減少や、加工用の一部減少がありましたが、下期には一定の回復があり増収増益になったとしています。

欧州に関しても下期には流通在庫調整によって一時的に売上が鈍化したとしているものの、増収増益ですし、会社側は成長トレンドに変化はないとしています。

北米はトランプ関税の影響がありつつも拡大が続いていますし欧州も堅調と、しょうゆ関連の海外事業は堅調な状況が続いていると言えます。

もう1つの主力である北米の食料品卸売事業でも、米国関税政策による混乱はあったものの、対応を進め、概ね順調に推移しましたとしており、増収増益となっています。

さらに、データ分析の高度化や業務効率化によって、利益率は下期も7%台後半を維持しているとしています。

日本食自体の人気が高まっていますから、しょうゆだけでなく、食品卸売も堅調な状況が続いており、海外事業は今後も堅調な業績が期待出来そうです。

そして、2026年3月期に最大の増益となったのは国内の食料品製造販売事業でした。

しょうゆ、食品、飲料が増収となったとしており、さらに豆乳は成長が拡大したとしています。

国内事業利益の増加要因を見ても、豆乳や食品などの売上増加がプラス要因になったとしています。

最近は健康志向が高まる中で改めて豆乳ブームとも呼ばれる状況になっており、豆乳にも強みを持つキッコーマンにとっては追い風の状況です。

成熟市場のしょうゆなどの調味料だけではない、成長ドライバーがあるというのは強みだと言えます。

ということで、国内外とも堅調な状況ですし、今後の拡大も期待できると考えられます。

そんな中で2027年3月期の通期予想を見ても増収で事業利益も増益を見込んでいます。事業の拡大を見込むということですね。

ちなみに、この業績に関してはドル円では155円を予想するなど、執筆時点の2026年7月時点の水準と比較すると円高の予想です。
円安が続けば業績の上振れもあるでしょうから注目です。

成長戦略

最後に、成長戦略について見ていきましょう。

今後さらに拡大を目指しているのが主力の海外しょうゆ事業です。

キッコーマンはエリア別のステージとして、日本は成熟ステージであり、高付加価値化や効率化が必要な市場。
北米や豪州も成熟ステージに近く、安定成長と高収益維持が重要にな市場だとしています。

一方で、欧州、アセアン、中国は成長ステージとしており生産・販売体制の強化を進めています。

さらに、南米、インド、アフリカなどは導入ステージとして、将来の成長に向けた基盤作りを進めています。

つまり、北米で安定的に稼ぎながら、欧州やアジア、さらに将来の新市場を育てていく戦略です。

特に欧州は年間平均成長率で10%を目指すとしており、最も高い成長率を目指す市場ですから欧州の拡大には特に注目です。

とはいえ、最大の市場である北米も安定成長と高収益化のための最も重要な市場です。

なので直近でも米国第3工場を建設しています。

米国第3工場は、ウィスコンシン州ジェファーソン郡に建設されており、2026年9月に出荷開始予定で、投資額は10年間で約5.6億ドルの予定です。

北米はすでに大きな主力市場ですが、今後も成長を続けるためには生産能力の拡大が必要です。

そのため、米国第3工場は中長期的な成長のために非常に重要な投資だと考えられます。

今後の北米の安定成長が続くかどうかにも注目です。

ちなみに、この投資で北米の食品製造販売事業では短期的には固定費負担が先行するということで、以下の業績を見込んでいます。

売上収益:1098億円(6.2%増)
事業利益:282億円(2.6%減)
事業利益率:28.0%→25.7%

売上は伸びるものの、固定費負担によって一時的に利益率が低下する見通しです。

短期的には利益を押し下げますが、中長期的には供給能力の拡大によって北米しょうゆ事業の成長につながれば、事業の拡大と収益性の改善が期待されますので、その進展に注目です。

加えて、海外食料品卸売事業では物流基盤の強化、既存拠点の整備と拡大、新規拠点開拓、M&Aを視野に入れた投資、調達・開発力の強化などを進める方針です。

全世界での東洋食品卸シェアNo.1の地位をより強固にしていくことを目指しています。

海外のさらなる拡大を進められるかがポイントになっています。

まとめ

ということで、キッコーマンは、日本では「しょうゆ」の企業として知られていますが、実態としては海外でのしょうゆ製造販売と、海外での食料品卸売を主力とするグローバル食品企業です。

ここ10年ほどの業績を見ると、売上・利益ともに拡大が続いています。

日本食人気の高まりもあり、海外しょうゆ事業の成長、海外食料品卸売事業が拡大し、円安の好影響、そして国内事業の収益性改善もありました。

直近でも海外の堅調な拡大、国内でも豆乳ブームの後押しなどがあり堅調な状況で、今後も堅調な業績が期待されます。

一方で、2027年3月期は成長投資の負担が出ることで、北米食料品製造・販売事業は増収ながら減益予想です。

先行投資の収益貢献が本格的に始まると、さらなる収益性の改善が期待されますので、中長期的には供給能力の拡大によって北米しょうゆ事業の成長につながるかどうかに注目です。

無料で「日経225全銘柄の企業分析が毎年届くニュースレター」をメールでお届けします。コンテンツを見逃さず、読者限定記事も受け取れます。

すでに登録済みの方は こちら

誰でも
自動車業界編:ブリヂストン【5108】数量を捨てたブリヂストンが、再び成長へ プレミアム戦略と構造改...
誰でも
自動車業界編:本田技研工業【7267】自動車会社なのに、利益の主役はバイク ホンダの強さと苦戦の理由...
誰でも
小売り業界編まとめ:小売り業界の現在、成熟市場で企業はどう成長するのか
誰でも
小売り業界編:セブン&アイHD【3382】拡大したアメリカ事業の規模を利益に変えられるのか
誰でも
小売り業界編:ZOZO【3092】国内最大級のファッションECの成長には物流効率化が重要な話
誰でも
ファーストリテイリング【9983】大きな成長が続くユニクロ、いまだ0.5%の欧米のシェアをどれだけ拡...
誰でも
小売り業界編:高島屋【8233】好調が続く百貨店、改めて高まる中国依存から脱却できるか
誰でも
小売り業界編:イオン【8267】売上10兆円のイオンは、巨大な規模を利益に変えられるか