決算から見える食品業界の現状:6社の決算に共通する3つのトレンド
6社の現状をダイジェストで
日清製粉【2002】は国内製粉でシェア40〜67%を持つ安定企業ですが、利益の主戦場はすでに海外です。
海外製粉の営業利益は製粉事業全体の半分以上を占め、特に米国は堅調な一方、豪州とインドでは減損が発生するなど、海外展開の中でも明暗が分かれていました。
日本ハム【2282】は2026年3月期に売上高1兆4574億円(+6.3%)、事業利益683億円(+60.7%)と過去最高を更新しました。
ただしこれは需要が伸びたからではなく、食肉事業が相場変動に左右されやすく、そんな中で食肉相場の追い風があったためです。
さらに、在庫コントロールもうまくハマりました。そのため2027年3月期は豪州牛肉の仕入価格上昇を見込み、早くも減益予想を出しています。
明治HD【2269】は2026年3月期営業利益933億円(+10.2%)と本業は改善していますが、純利益は中国事業の減損で31.0%減。
価格改定で利益は出ているものの、値上げのたびに数量が落ちるという構造的な苦しさを抱えていました。
キッコーマン【2801】は、しょうゆの会社というイメージとは裏腹に、売上・利益の8割前後を海外(特に北米のしょうゆと食品卸売)が稼いでいます。
日本食ブームを追い風に10年で売上は1.8倍、営業利益は2倍以上に拡大しており堅調な拡大が続いています。
ニッスイ【1332】は2026年3月期に売上高9312億円、営業利益404億円(+27.2%)と過去最高益。
水産相場という不安定要素を抱えながらも、養殖の拡大や食品事業との組み合わせで、以前より高い利益水準を維持できる体質に変わりつつあります。
ニチレイ【2871】は冷凍食品と低温物流の2本柱で10年間右肩上がりに成長してきましたが、直近は冷凍食品の原材料高が直撃し、食品事業の利益は減益。
それを低温物流事業の増益でカバーする構図になっていました。
共通トレンド①:値上げが「効く商品」と「効かない商品」に分かれてきた
6社に共通するのは、原材料費・エネルギーコスト・物流費の上昇に対して、価格改定でどこまで対応できるかという問題です。
近年は価格転嫁が進み業績に改善が見られていますが、直近では「値上げすれば増収増益」という単純な話ではなく、商品の性質によって値上げの効き方がはっきり分かれ始めていることが見えてきます。
1つ目は、日清製粉の小麦粉やキッコーマンの国内しょうゆのような、生活必需品に近く高シェアを持つ商品です。
日清製粉の食品事業は「価格改定の効果に加えて出荷数量もプラスに働いており、堅調」としており、値上げをしても需要が減っていません。
毎日の食卓に欠かせない基礎的な商品で、かつ代替が効きにくい高シェア商品は、値上げをしても離脱が起きにくいということです。
もちろん、国内だけで大きく数量を伸ばすのも難しく、安定はしても急成長は見込みにくい領域でもあります。
2つ目は、明治HDのチョコレートや乳製品のような、嗜好品・付加価値型の商品です。
2026年3月期は価格改定効果で営業利益を485億円押し上げた一方、数量・プロダクトミックスの悪化で194億円のマイナスが出ています。
値上げをすれば一定の買い控えが起きる商品だということです。
しかもカカオや生乳といった原料自体が高騰を続けているため、「値上げしないと利益が出ない」のに「値上げすると数量が逃げる」という板挟みが続いています。
3つ目は、ニチレイの冷凍食品のような、価格の安さそのものが選ばれる理由になっている商品です。
2026年3月期は業務用が13%増、家庭用が4%増と数量ベースでは伸びており、値上げをしても客離れは起きていません。
ところが営業利益は原材料・仕入コストの悪化を打ち返しきれず減益でした。冷凍食品は「安いから選ばれる」側面が強いため、値上げ自体は受け入れられても、価格を大きく引き上げる余地が小さく、原価上昇をそのまま利益で吸収せざるを得ない構造だということです。
つまり同じ「値上げ」でも、①離脱が起きにくく耐性が強いタイプ、②値上げで数量が逃げるタイプ、③数量は保てても利益への跳ね返りが鈍いタイプ、という3パターンに分かれ始めています。
これまでのように「原料高→一律値上げ→増収増益」という単純な構図が通用しにくくなっているのが、今の食品業界の実態だと言えそうです。
共通トレンド②:海外は一括りにできない、地域差がはっきりしてきた
国内の食品市場は人口減少もあって大きな成長が見込みにくい市場です。
そのため各社とも、成長の中心はすでに海外に移っています。
ただし「海外なら伸びる」わけではなく、地域によって明暗がはっきり分かれてきています。
相対的に強いのが北米です。キッコーマンは海外食料品事業だけで売上の77%、利益の86%を占め、その中心は北米のしょうゆと食品卸売です。
日清製粉も米国製粉事業は堅調に推移していますし、ニッスイの北米商事も堅調としています。
日本食ブームを背景とした需要の底堅さに加えて、現地生産や長年のブランド投資が効いており、今のところ最も収益化が進んでいる市場と言えます。
一方で厳しさが見えているのが中国です。
明治HDは国内成長の限界を見据えて中国に新工場を建設するなど2010年代から積極的に投資してきましたが、近年の景気低迷もあり苦戦が続き、2026年3月期には固定資産の減損を計上しました。
現在は不採算取引の見直しや販売体制の再構築といった「リバイバルプラン」で立て直しを図っている段階です。
かつて期待された規模の成長を、想定通りには取り込めていないのが現状です。
豪州とインドはさらに複雑です。日清製粉は豪州製粉事業で構造改革を迫られており過去にも減損を計上、日本ハムも豪州産牛肉の仕入価格上昇を2027年3月期の減益要因として見込んでいます。
インドについても、日清製粉のイースト事業は市場成長率7%が期待され販売シェアも25%まで拡大しているものの、直近では固定資産の減損を計上しており、「市場は成長しているのに、まだ利益には結びついていない」という段階です。
つまり海外展開は、
①北米のように需要とブランド投資がかみ合って収益化が進む市場
②中国のように投資した規模に見合うリターンがまだ出ていない市場
③豪州・インドのように成長期待はあるものの収益化にはもう一段時間がかかる市場
に分かれてきているということです。「海外に出れば成長できる」というフェーズから、「どの市場でどう収益化するか」が問われるフェーズに移っていると言えそうです。
共通トレンド③:「食の外部化」がもう一つの追い風
共働き世帯や単身世帯、高齢世帯の増加を背景に、家庭で一から調理するのではなく、冷凍食品・チルド食品・中食を買う流れが定着しつつあります。
ニチレイの冷凍食品と低温物流、日清製粉の中食・惣菜事業、ニッスイのチルド食品はいずれもこの流れを取り込んで拡大している事業です。
人手不足でスーパーやコンビニ、外食が自前で調理する負担を負いきれなくなっていることも、外部の食品メーカーへの追い風になっています。
この分野は日本の食品業界では数少ない成長分野といえます。
相場変動企業の中でも明暗:ニッスイと日本ハム
続いて同じ「相場に業績が左右される」企業でも、ニッスイと日本ハムでは向き合い方に違いがあります。
食肉や魚といった素材を取り扱う企業は実は相場に左右されます。
そんな中で日本ハムは食肉事業が売上・利益の大半を占め、仕入価格・在庫・為替の影響をほぼ直接受ける構造です。
2026年3月期は国産鶏肉や豪州産牛肉の相場上昇が追い風となり大幅増益となりましたが、2027年3月期は豪州牛肉の仕入価格上昇を理由に、早くも食肉事業だけで113億円の減益を見込んでいます。
相場が良い年は跳ね、悪い年は沈む構造がそのまま残っています。
一方でニッスイは、水産事業(相場の影響を受けやすい)と食品事業(水産市況が下がれば原料コストが下がってプラスに働く)を両方持つことで、市況変動をある程度打ち消し合う構造を作っています。
加えて、漁業より生産量をコントロールしやすい養殖事業の拡大を進めることで、相場任せではない利益の積み上げを目指しています。
畜産と違い水産では、養殖という変化の余地がある点に違いがあると言えます。
同じ「市況に左右される業種」でも、事業構成や養殖のような変化の余地があるか否かによってリスクの抱え方が変わってくるという点は、この2社を並べるとよく見えてきます。
リスク要因:為替と地政学
最後に、各社に共通するリスクとして為替と地政学リスクも触れておきます。
日清製粉は中東情勢に伴うコスト転嫁のタイムラグ影響を▲15億円と試算していますし、キッコーマンの業績は円安・円高の水準次第で大きく上下します。
小麦、カカオ、生乳、食肉、水産物といった原料はいずれもグローバルな市況や為替の影響を受けやすく、価格改定のタイミングと市況の動きがずれるだけで、業績は大きく振れます。
事業自体の実力なのか、為替や地政学要因による一時的な振れなのかを分けて見る視点は、この業界を追ううえで欠かせなさそうです。
まとめ
6社を並べて見えてきたのは、「値上げの限界に近づきながら、海外と食の外部化需要で成長を作ろうとしている」という食品業界共通の姿です。
値上げだけに頼れない以上、各社の勝負どころは、海外展開をどれだけ収益化できるか、そして冷凍食品・中食・チルドといった需要拡大領域をどれだけ取り込めるかにかかっています。加えて、相場変動リスクをどう事業構成で吸収するかという点でも、ニッスイのような複数事業の組み合わせ方が今後さらに重要になってきそうです。
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