自動車業界編:まとめ EV一本足の時代が終わり、4社は「今ある強み」で稼ぎ直す
完成車、タイヤ、商用車、部品と立ち位置はバラバラですが、決算を並べてみると、実は共通点がかなり多く見つかります。
今回は、自動車業界編のまとめとして、それぞれの要点を振り返りながら、いま自動車業界全体で何が起きているのかを見ていきましょう。
各社のおさらい
本田技研工業【7267】利益の主役はバイク、四輪はHVへ回帰
ホンダは「自動車会社なのに、利益の柱は二輪」という会社でした。
2026年3月期の二輪事業は営業利益7319億円・利益率18.2%で過去最高。世界シェア約4割という圧倒的な規模が強みです。
一方の四輪事業は、EV関連損失を除いても営業利益はわずか425億円(利益率0.3%)にとどまっています。
そしてEV戦略でつまずいたのが2026年3月期です。
米国ではEV市場の成長が鈍化し、中国では中国メーカーとの競争に敗れ、EV関連で1兆4536億円もの営業損失を計上。
会社全体でも営業利益は前期の1兆2135億円から▲4143億円へと赤字転落しました。
ただし、EV関連損失を除いた調整後営業利益は1兆393億円あり、稼ぐ力そのものが崩れたわけではありません。
ホンダは短中期的にはEVからハイブリッドへ経営資源を大きく戻す方針へと転換しています。
ブリヂストン【5108】数量を捨て、プレミアムと構造改革で稼ぐ
ブリジストンは世界シェア13.6%で世界2位のタイヤメーカーです。
中国メーカーの台頭で低価格帯の競争が激しくなるなか、あえて数量を追わず、高インチタイヤなどのプレミアム製品に集中する戦略を取ってきました。
同時に、世界各地で不採算拠点を整理する大規模な構造改革も進め、2024〜2025年の累計コスト削減効果は約1470億円に達しています。
その結果、2025年12月期は売上横ばい(4兆4295億円)でも増益を確保しました。
そして2026年12月期の上期は、値上げや円安だけでなく販売数量までプラス要因に転じ、上期として過去最高を更新しています。
市場が縮小する北米でもシェアを伸ばしており、「プレミアム化しながら、再び数量とシェアも取りにいく」段階へ移りつつあります。
いすゞ自動車【7202】「売って終わり」からストック型へ
グローバルでも上位のトラックメーカーで、国内の中大型トラックでは完全子会社のUDトラックス込みで約58%という圧倒的なシェアを持ちます。
いすゞの注目点は、商用車ならではの「売った後」のビジネスです。
トラックは乗用車より圧倒的に長く走り、法定点検も多いため、販売後に大量のメンテナンス需要が生まれます。
いすゞの試算では、トラック1台の生涯売上は新車販売60%・アフターセールス40%。
そのアフターセールス売上は10年弱で2828億円から6210億円へと2倍以上に伸びています。
足元はコスト高やタイ市場の低迷、研究開発費の増加で減益傾向ですが、北米のニッチ市場(キャブオーバー型トラックでシェア82%)の拡大、UDトラックスとの統合、そして商用車ならではの自動運転・電動化への取り組みなど、会社そのものを変える動きが同時に進んでいます。
デンソー【6902】EV鈍化でも成長、次の壁は利益率10%
世界2位の自動車部品メーカーで、トヨタグループが売上の55%超を占めます。
強みは事業の幅広さです。ガソリン車向けのパワトレインは全体の2割程度で、残りは電動化・ADAS・熱マネジメント・半導体など、自動車の変化でむしろ重要性が増す領域です。
だからこそ「EVが想定ほど伸びず、HV・PHEV・BEVが併存するマルチパスウェイ」という現実は、デンソーにとって必ずしも逆風ではありません。電動化製品はHEVやPHEVでも必要だからです。
自動車生産の回復、1台当たり搭載額の増加、円安、収益改善が重なり、2026年3月期は営業利益5525億円と過去最高となりました。
ただし利益率は約7.3%で、目標の10%には届いていません。巨額の成長投資を本当に高収益につなげられるかが、次の課題です。
自動車業界全体でいま起きていること
4社を横断すると、いくつかの大きな流れが浮かび上がります。
① 中国メーカーの台頭が、あらゆる階層を揺らしている
もっとも大きな変化が、BYDをはじめとする中国メーカーの急成長です。
ホンダは中国での四輪販売が急減し、EVでもソフトウェアと価格の競争で敗れました。
デンソーも、電動化の一大市場である中国で日系メーカーの苦戦に引きずられています。
ブリヂストンでも、中国のタイヤメーカーが低価格帯でシェアを伸ばし、価格競争が激しくなっています。
完成車から部品、タイヤまで、中国発の低価格・高速開発の波がバリューチェーンのあらゆる階層に及んでいるのが、いまの状況です。
商用車のいすゞは相対的に影響が薄いものの、タイ市場の低迷という別の新興国リスクを抱えています。
② 「EV一本足」の楽観シナリオが後退した
数年前は「ガソリン車から一気にBEVへ移行する」という見方が業界を覆っていました。
各社はその前提で巨額の投資を進めてきました。
ところが現実は、地域によってBEVの普及スピードに大きな差が出て、HV・PHEV・BEV・FCEVが長期間併存する「マルチパスウェイ」が現実解になりつつあります。
ホンダはこの変化で1兆円超の損失を出し、EVからHVへ大きく舵を切り直しました。
逆にデンソーは、電動化製品がHVでも使えるため、この揺り戻しにむしろ対応しやすい立場にいます。EVへの賭け方の違いが、そのまま各社の明暗を分けているわけです。
③ 共通点は「数量」から「収益性・付加価値」へ
市場環境の変化の中で台数を追えば利益が増える、という時代ではなくなりました。
ブリヂストンは数量よりプレミアムタイヤ。
いすゞは新車販売よりアフターセールスというストック収益。
デンソーは1台当たりの搭載額の引き上げ。
ホンダも二輪の高付加価値化を進めています。
そして4社に共通するのが、大規模な構造改革とコスト削減です。
ブリヂストンの拠点整理、ホンダの車種削減と生産再編、デンソーの「Reborn21」という構造改革、インフレや競争激化のなかで、各社は「稼ぐ体質」への作り替えを続けています。
台数の成長が読みにくくなったからこそ、1台・1本あたりの収益をどう高めるかが勝負どころになっています。
④ 円安が支え、関税・地政学が揺らす
いずれも海外売上比率の高いグローバル企業のため、外部環境の影響を強く受けます。
足元で共通の追い風になっているのが円安です。
一方で逆風も共通で、米国の関税はホンダ・いすゞ・ブリヂストンの利益を押し下げ、中東情勢による原材料・物流コストの上昇はいすゞ(通期▲400億円見込み)やブリヂストン(通期約700億円の悪影響見込み)を直撃しています。
つまり足元の好業績には円安という共通の下支えがあり、その裏で関税や地政学リスクという共通の重石を抱えている、という状況です。
この外部環境が反転したとき、各社の「実力」がより問われることになります。
少し先の話:自動化は「商用車から乗用車へ」広がるかもしれない
最後に、自動運転の可能性について触れていこうと思います。
乗用車の自動運転は、「日本中のどんな道でも走れる」という非常に高いハードルがあり、普及は想定より遅れている印象があります。
一方で商用車は、決まったルートを走り、深刻なドライバー不足という切実な課題があり、「人件費をいくら削減できるか」で投資対効果を計算できます。
だからこそ、CASE化はむしろ乗用車より商用車で先に進む可能性があります。
なので、今回見た企業の中でも商用車を扱ういすゞは、かなり積極的に実証実験を進めていました。
そして、商用車で自動運転が先に実用化されれば、そこで蓄積された走行データや制御技術、安全性の知見が積み上がっていきます。
その実データは乗用車の自動運転の実用化や許認可にも活用出来る可能性があります。
つまり、「乗用車が最先端を走り、商用車が後を追う」のではなく、「限定された環境の商用車で先に実用化し、そこで得たデータや知見が乗用車へ広がっていく」という順序で、自動車全体の自動化が進んでいくというシナリオがあり得るかもしれません。
もちろん、これはあくまでひとつの予測にすぎません。ですが、EVの普及ペースすら読みにくくなったいまだからこそ、次はどの技術が、どんな順序で普及していくのか。
そこを想像しながら各社の動きを追っていくのも、自動車業界を見る面白さのひとつだと思います。
まとめ
自動車業界編の4社に共通していたのは、「EVへ一直線」という数年前のシナリオが後退し、各社が今ある現実的な強みに軸足を戻しているという点でした。
ホンダは二輪とハイブリッド、ブリヂストンはプレミアムと構造改革、いすゞはストック型ビジネスと商用車ならではのCASE化、デンソーはマルチパスウェイに対応できる幅広い製品ポートフォリオ。
稼ぎ方はそれぞれ違いますが、「派手なEVシフトで一気に伸びる」のではなく、「地道に収益性を高めながら変化に備える」方向へ、そろって舵を切っています。
そのうえで、中国メーカーの台頭、EV普及の不確実性、関税・地政学リスクという共通の課題にどう向き合うか。円安という追い風が続くうちに、どこまで実力ベースの収益力を積み上げられるか。自動車業界全体として、そこが今後の大きな注目点になりそうです。
すでに登録済みの方は こちら



